てんかんで障害年金は受給できる?申請条件と認定基準の完全ガイド
てんかんの診断を受けた方やそのご家族から、「障害年金は受給できるのだろうか」という相談を多くいただきます。
てんかんは突然の発作により日常生活や就労に大きな制限が生じる疾患です。
薬物療法を続けていても発作が完全にコントロールできない場合、外出や運転、仕事に不安を抱えながら生活されている方も少なくありません。実は、てんかんの症状によっては障害年金の受給対象となる可能性があるのです。
てんかんで障害年金は受給できる
結論から申し上げると、てんかんの症状や発作の頻度、日常生活への影響度によって、障害年金の受給対象となります。ただし、すべてのてんかん患者が対象になるわけではなく、一定の基準を満たす必要があります。
てんかんは「目に見えない障害」と言われることがあります。発作が起きていない時は健常者と変わらない生活ができる一方で、いつ発作が起こるか分からない不安や、発作による転倒・意識消失のリスクを常に抱えています。この「予測できない」という特性が、日常生活や就労に大きな制約をもたらすのです。
障害認定基準では、発作の種類、頻度、服薬状況、日常生活への支障の程度などを総合的に評価して等級が決定されます。適切な治療を受けていても発作がコントロールできない場合や、発作により日常生活に著しい制限を受けている場合は、障害年金の対象となる可能性が高いのです。
てんかんの基礎知識と障害年金の関係
てんかんとは、脳の神経細胞が過剰に興奮することで、繰り返し発作が起こる慢性的な脳の疾患です。日本では約100万人の患者がいると推定され、決して珍しい病気ではありません。
発作の種類と特徴
てんかん発作は大きく分けて、全般発作と部分発作(焦点発作)があります。全般発作には、意識を失って全身が硬直し痙攣する強直間代発作、突然意識を失う欠神発作などがあります。部分発作は脳の一部から始まる発作で、意識が保たれる場合と意識が障害される場合があります。
障害年金との関連では、発作の種類そのものよりも、「発作の頻度」「発作による転倒や意識障害の程度」「抗てんかん薬の服用による副作用」「日常生活や就労への影響」が重要な評価ポイントになります。
てんかんの治療と課題
てんかんの治療は抗てんかん薬による薬物療法が基本です。約70%の患者は薬物療法で発作がコントロールされますが、残りの30%は薬剤抵抗性てんかんとして、複数の薬を組み合わせても発作が抑えられない状態が続きます。
これは例えるなら、火災報知器の誤作動を止めようとしているのに似ています。適切な対策(薬物療法)を講じても、脳の電気的な興奮が完全には抑えられず、予期せぬタイミングで「警報」が鳴り続けてしまう状態です。このような場合、日常生活に大きな支障が生じ、障害年金の対象となりやすくなります。
障害等級の認定基準
てんかんによる障害年金の等級は、発作の頻度、種類、就労状況などを総合的に評価して決定されます。精神の障害として認定されるため、精神の障害用の診断書が必要になります。
障害等級1級に該当するケース
十分な治療にもかかわらず、てんかん性発作のA又はBが月に1回以上ある場合、かつ常時の介護が必要な程度のものが該当します。具体的には以下のような状態です。
発作により頻繁に意識を失い、一人での外出が困難な場合、発作のため転倒し怪我をする危険が高く、常に見守りが必要な場合、発作後の状態が悪く、日常生活のほとんどに介助が必要な場合などです。
1級の認定は非常に厳しく、単に発作があるだけでなく、日常生活において常時援助が必要な状態であることが求められます。
てんかん性発作のAとは意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作、Bとは意識障害の有無を問わず、転倒する発作です。Cは意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作、Dは意識障害はないが、随意運動が失われる発作です。
障害等級2級に該当するケース
十分な治療にもかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回以上ある場合、またはC又はDが月に1回以上ある場合で、日常生活が著しい制限を受ける状態が該当します。
2級に該当するケースとしては、月に数回の発作があり、外出時に必ず付き添いが必要な場合、発作への不安から就労が著しく制限される場合、服薬による副作用で日中の眠気が強く、日常生活に支障がある場合などがあります。
障害等級3級に該当するケース
十分な治療にもかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回未満ある場合、またはC又はDが月に1回未満ある場合で、労働に制限を受けるものが該当します。ただし、初診日に厚生年金に加入していた方のみが対象です。
3級の具体例としては、年に数回の発作があり、運転や高所作業など危険を伴う仕事ができない場合、発作への不安から就労時間や業務内容に制限がある場合、抗てんかん薬の副作用により集中力が低下し、仕事の効率が著しく下がる場合などです。
認定のポイント
等級認定では、「十分な治療」を行っているかが重視されます。これは、医師の指示通りに抗てんかん薬を服用し、定期的に通院して血中濃度のチェックなどを受けているかということです。自己判断で服薬を中断したり、通院を怠っている場合は、「十分な治療」とみなされない可能性があります。
申請に必要な条件
障害年金を受給するためには、てんかんの症状に加えて、以下の3つの条件を満たす必要があります。
初診日要件
てんかんで初めて医療機関を受診した日(初診日)に、国民年金または厚生年金に加入していることが必要です。てんかんの場合、初めて発作が起きた時に受診した病院が初診日の医療機関となります。
幼少期からてんかんがある場合は、20歳前に初診日があることになり、20歳前障害として申請できる可能性があります。この場合は保険料納付要件が免除され、20歳に達した時点で障害の状態にあれば受給できます。
初診日の証明は、初診時の医療機関にカルテが残っていない場合でも、診察券、お薬手帳、紹介状のコピー、母子手帳などで対応できる場合がありますので、年金事務所や社会保険労務士に早めに相談しましょう。
保険料納付要件
初診日の前日時点で、一定期間以上の保険料を納めていることが求められます。具体的には、初診日の属する月の前々月までの期間で、加入期間の3分の2以上の保険料を納付または免除されている必要があります。
ただし、令和18年(2036年)3月31日までに初診日がある場合は、初診日において65歳未満であれば、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がない場合でも認められる特例があります。学生時代に発症した場合でも、学生納付特例制度を利用していれば、この要件を満たすことができます。
障害状態要件
初診日から1年6ヶ月経過した日(障害認定日)に、障害等級に該当する状態であることが必要です。ただし、てんかんの場合、薬物療法を開始してもすぐに発作がコントロールできるとは限らず、1年6ヶ月の時点ではまだ症状が安定していないことも多くあります。
そのような場合は、障害認定日の時点では等級に該当しなくても、その後症状が悪化し、または薬剤抵抗性てんかんであることが明らかになった時点で「事後重症請求」として申請することができます。現在、日常生活や就労に支障がある状態であれば、申請を検討する価値があります。
申請手続きの流れ
てんかんで障害年金を申請する際の手続きは、以下のステップで進めていきます。
ステップ1:必要書類の準備
年金事務所または市区町村役場で「年金請求書」を入手します。また、医師に「診断書(精神の障害用)」を作成してもらいます。診断書には、発作の種類、頻度、服薬状況、日常生活の状況などが詳しく記載されます。
診断書は障害年金の審査において最も重要な書類です。医師に依頼する際は、日常生活でどのような困りごとがあるのかを具体的に伝えましょう。「月に何回くらい発作があるか」「発作が起きる時間帯や状況」「発作後の状態」「服薬による副作用」「仕事や外出への影響」などを詳しく説明することが大切です。
ステップ2:受診状況等証明書の取得
初診の医療機関と現在の医療機関が異なる場合は、初診時の病院で「受診状況等証明書」を取得する必要があります。これは、病気の経過と初診日を証明する重要な書類です。
てんかんの場合、幼少期から症状があり、複数の医療機関を転々としているケースも少なくありません。古い病院のカルテが残っていない場合は、受診状況等証明書が取れない旨の申立書を提出し、2番目以降の医療機関の証明書で対応することもできます。
ステップ3:病歴・就労状況等申立書の作成
ご自身で、発病から現在までの経過や日常生活の状況を記載します。てんかんの場合、発作の頻度や種類だけでなく、発作への不安がどのように生活に影響しているかを具体的に書くことが重要です。
たとえば、「外出時は必ず家族の付き添いが必要」「発作が怖くて電車やバスに乗れない」「入浴中の発作が心配で一人で入浴できない」「仕事中に発作が起きないか常に不安」「薬の副作用で午前中は眠気が強く、家事ができない」など、具体的なエピソードを記入しましょう。
ステップ4:年金事務所への提出
すべての書類が揃ったら、年金事務所に提出します。提出後、約3ヶ月程度で結果が通知されます。この間に追加の資料提出を求められることもありますので、年金事務所からの連絡には速やかに対応しましょう。
受給額の目安
障害年金の受給額は、等級と加入していた年金制度によって異なります。令和7年度の金額を参考にご紹介します。
障害基礎年金の場合
1級は年額約104万円(月額約8.6万円)、2級は年額約83万円(月額約6.9万円)です。お子さんがいる場合は、子の加算として1人目・2人目は各約23.9万円、3人目以降は各約7.9万円が加算されます。
たとえば、2級で18歳未満のお子さんが2人いる場合、年額約130万円(月額約10.8万円)の受給となります。これは、発作への不安を抱えながら生活する中で、医療費や通院費の負担を軽減する大きな支えとなります。
障害厚生年金の場合
1級は障害基礎年金(年額約104万円)に加えて、報酬比例部分の1.25倍が支給されます。2級は障害基礎年金(年額約83万円)に加えて、報酬比例部分が支給されます。3級は報酬比例部分のみで、最低保障額は年額約62万円です。
さらに、2級以上で配偶者がいる場合は、配偶者加給年金(年額約23.9万円)が加算されます。厚生年金の加入期間や過去の給与額によって金額は変わりますが、多くの場合、月額10万円以上の受給が期待できます。
20歳前障害の場合
幼少期からてんかんがあり、20歳前に初診日がある場合は、20歳前障害として障害基礎年金が支給されます。ただし、本人の所得が一定額(年間約376万円)を超える場合は、支給額が制限されるか、全額停止される場合があります。
申請時の注意点とポイント
診断書の内容が最重要
てんかんの障害年金審査では、診断書の記載内容が最も重視されます。医師に診断書を依頼する際は、発作の頻度や種類を正確に伝えることはもちろん、日常生活での困りごとを具体的に説明しましょう。
「発作の頻度」の欄には、直近1年間の発作回数を正確に記入してもらう必要があります。発作日記をつけている場合は、それを医師に見せると良いでしょう。また、「日常生活能力の判定」や「日常生活能力の程度」の欄も重要です。ここで生活上の支障が適切に評価されていないと、実際よりも軽い等級と判定される可能性があります。
服薬状況の記録を残す
「十分な治療」を行っているかが認定の重要なポイントになるため、服薬状況の記録を残しておくことが大切です。お薬手帳を必ず持参し、処方された薬を医師の指示通りに服用していることを示せるようにしましょう。
また、血中濃度測定の結果や、薬を変更した経緯なども記録しておくと、診断書作成時に医師に正確な情報を提供できます。複数の抗てんかん薬を試しても発作がコントロールできない場合は、薬剤抵抗性てんかんとして認定されやすくなります。
発作日記をつける
発作の頻度や種類を正確に把握するため、発作日記をつけることをお勧めします。「いつ、どのような状況で、どんな発作が起きたか、発作の持続時間、発作後の状態」などを記録しておきましょう。
これは診断書作成時に医師に提供するだけでなく、病歴・就労状況等申立書を書く際にも役立ちます。記憶だけに頼ると、発作の頻度を過小評価してしまうことがあるため、できるだけ記録を残すことが重要です。
不支給の場合は審査請求が可能
万が一、不支給の決定が出た場合でも、3ヶ月以内であれば「審査請求」ができます。不支給の理由を確認し、必要に応じて追加の医学的証拠を提出することで、認定される可能性があります。
てんかんの場合、発作の頻度が認定基準にわずかに届かなかったり、日常生活の支障が十分に評価されなかったりして不支給となるケースがあります。しかし、実際には生活に大きな支障があるにもかかわらず、診断書の記載が不十分だったために不支給となることもあるのです。諦めずに、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。
申請をサポートしてくれる専門家
障害年金の申請手続きは複雑で、多くの書類が必要になります。以下のような専門家に相談することで、スムーズな申請が可能になります。
社会保険労務士
障害年金の申請代行を専門とする社会保険労務士に依頼すれば、書類作成から提出まで全面的にサポートしてもらえます。特にてんかんの場合、発作の種類や頻度を認定基準に照らして適切に評価し、診断書や申立書に反映させる専門知識が必要です。
費用はかかりますが、認定率を高める効果が期待できます。報酬は成功報酬制(受給が決定した場合のみ支払う)を採用している事務所も多く、初期費用を抑えられる場合もあります。
医療ソーシャルワーカー
病院に在籍する医療ソーシャルワーカーは、制度の説明や手続きの相談に応じてくれます。無料で相談できるため、まず最初に相談してみるとよいでしょう。また、主治医に診断書を依頼する際のポイントなども教えてもらえます。
患者会や支援団体
てんかん協会などの患者会では、実際に障害年金を受給している方の体験談を聞くことができます。「どのように申請したか」「どんな点に注意したか」など、実践的なアドバイスが得られる貴重な場です。
また、てんかんへの理解を深め、同じ悩みを持つ仲間と交流することで、精神的なサポートも得られます。一人で悩まず、こうしたコミュニティを活用することも大切です。
まとめ:前向きに申請を検討しましょう
てんかんで障害年金を受給するためには、十分な治療を行っていても発作が一定頻度以上ある場合、または発作により日常生活や就労に著しい制限がある場合に該当する必要があります。等級は1級から3級まであり、発作の種類、頻度、日常生活への影響度によって判定されます。
申請には初診日要件、保険料納付要件、障害状態要件の3つの条件があり、障害認定日(初診日から1年6ヶ月後)または現在の状態で手続きが可能です。特に重要なのは診断書の内容で、発作の頻度や日常生活の支障を正確に医師に伝えることが認定のカギとなります。
必要書類の準備や手続きは複雑に感じられるかもしれませんが、社会保険労務士や医療ソーシャルワーカーなどの専門家のサポートを受けることで、スムーズに進められます。障害年金は、てんかんと共に生活する上での経済的負担を軽減し、より安心して治療や日常生活に専念するための重要な制度です。
「自分は対象になるのだろうか」と迷っている方は、まずは最寄りの年金事務所や専門家に相談してみることをお勧めします。発作への不安を抱えながら生活する中で、適切な支援を受けることで、少しでも安心して過ごせる環境を整えていきましょう。てんかんは決して一人で抱え込む必要のない疾患です。制度を活用し、周囲のサポートを得ながら、前向きに治療を続けていくことが大切です。