確定申告の季節になると、多くの方が「どのような控除が受けられるのか」「書類の書き方は間違っていないか」と不安になるものです。特に障害のある方やそのご家族にとって、障害者控除は非常に重要な節税措置ですが、その内容や申請方法を正確に理解している方は意外と少ないのが現状です。
この記事では、確定申告における障害者控除の基本から応用まで、分かりやすく解説します。障害者手帳をお持ちの方だけでなく、障害年金受給者や介護認定を受けている高齢者の方も対象となる可能性があることや、控除を受けるための具体的な手続き方法、さらには他の控除との組み合わせによる効果的な活用法まで、専門家の視点からお伝えします。この記事を参考に、ご自身やご家族の状況に合わせた適切な節税対策を実践し、税負担の軽減にお役立てください。
障害者控除とは?基本的な仕組みと対象者
障害者控除とは、納税者本人または扶養親族に障害がある場合に受けられる所得控除の一つです。この控除は所得税法第79条および地方税法第34条に基づいており、障害のある方の経済的負担を軽減するために設けられた制度です。
控除の仕組みとしては、課税所得から一定額を差し引くことで、結果的に納める税金の額を減らすことができます。例えば、年収500万円の方が27万円の一般障害者控除を受けた場合、課税所得が473万円に減り、所得税率(10%と仮定)に基づくと約2.7万円の税負担軽減となります。
障害者控除の対象となる方は、主に以下の条件に該当する方です:
1.身体障害者手帳を持っている方
1級から6級までの認定を受けている方
2.精神障害者保健福祉手帳を持っている方
1級から3級までの認定を受けている方
3.療育手帳(愛の手帳)を持っている方
A(重度)またはB(中度・軽度)の判定を受けている方
4.障害年金を受給している方
障害厚生年金・障害基礎年金の1級または2級の受給者
5.特別児童扶養手当を受給している児童
1級または2級に該当する児童
6.その他市区町村から認定を受けた方
要介護認定等で一定の条件を満たした高齢者など
注目すべき点として、必ずしも障害者手帳を持っていなくても、一定の条件を満たせば障害者控除の対象となる可能性があります。特に高齢者の方や障害年金受給者の方は、この点を知らないために控除を受け損ねているケースが少なくありません。
障害者控除は、申告しなければ適用されない「申請主義」の制度です。自動的に適用されるわけではないため、条件に該当する方は必ず確定申告または年末調整で申請する必要があります。
確定申告で障害者控除を受けるための条件
確定申告で障害者控除を受けるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。ここでは、基本的な条件と特殊なケースについて詳しく解説します。
基本的な条件として、以下の点が挙げられます:
1.本人または扶養親族に障害があること
納税者本人に障害がある場合はもちろん、扶養している家族に障害がある場合も控除の対象となります。
2.前年の12月31日時点で障害の状態にあること
控除を受ける年の前年末時点での状態が基準となります。
3.適切な証明書類を取得していること
障害者手帳や障害者控除対象者認定書などの公的な証明が必要です。
4.確定申告または年末調整で申請すること
控除は自動的には適用されないため、必ず申請手続きが必要です。
障害者手帳がなくても控除を受けられるケース
障害者手帳を持っていなくても、以下のようなケースでは障害者控除を受けられる可能性があります:
1.要介護認定を受けている高齢者
多くの自治体では、要介護認定を受けている高齢者に対して、一定の条件を満たせば「障害者控除対象者認定書」を発行しています。一般的に要介護1〜2は「一般障害者」、要介護3以上は「特別障害者」に相当すると認められることが多いですが、自治体によって基準は異なります。
2.障害年金受給者
障害基礎年金や障害厚生年金の受給者も、障害者控除の対象となる場合があります。国税庁の通達により、障害年金1級・2級の受給者は「特別障害者」に該当すると認められることが多いです。
3.特別児童扶養手当受給者
特別児童扶養手当を受給している児童は、手当の等級に応じて障害者控除の対象となります。
4.難病患者
一部の難病患者の方も、自治体の認定を受けることで障害者控除の対象となる場合があります。
これらのケースでは、市区町村の福祉担当窓口で「障害者控除対象者認定書」を申請・取得することが必要です。認定書の発行には、医師の診断書や介護認定資料などが必要となる場合もあります。
障害年金受給者と障害者控除の関係
障害年金を受給している方と障害者控除の関係については、特に注意が必要です。
1.障害年金と税金の関係
まず基本として、障害年金自体は非課税所得です。つまり、障害年金の受給額に対して税金はかかりません。しかし、障害年金を受給していることと、障害者控除を受けられることは別の問題です。
2.障害年金受給者の障害者控除
障害年金1級または2級の受給者は、国税庁の通達(所得税基本通達)により、「特別障害者」に該当すると認められる場合が多いです。これにより、確定申告で特別障害者控除(40万円)を受けることができます。
3.必要な手続き
障害年金の受給者が障害者控除を受けるためには、年金証書や振込通知書などの受給を証明する書類を用意する必要があります。自治体によっては「障害者控除対象者認定書」の発行を受ける必要がある場合もあるため、お住まいの市区町村に確認することをおすすめします。
4.障害年金3級の場合
障害年金3級の受給者については、一般的に「一般の障害者」に該当すると認められることがありますが、自治体や状況によって判断が異なる場合があります。
障害年金を受給している方は、非課税所得である年金に加えて、他の所得(給与所得など)がある場合に障害者控除を活用することで、さらなる税負担の軽減が可能です。年金受給者の方は、この点を見落とさないようにしましょう。
障害者控除の種類と金額|いくら節税できる?
障害者控除には、障害の程度や生活状況によって3種類の区分があり、それぞれ控除額が異なります。ここでは、各種類の控除額と実際の節税効果について解説します。
障害者控除の種類と控除額
1.一般の障害者控除
所得税:27万円
住民税:26万円
対象:身体障害者手帳3〜6級、精神障害者保健福祉手帳2〜3級、療育手帳B判定など
2.特別障害者控除
所得税:40万円
住民税:30万円
対象:身体障害者手帳1〜2級、精神障害者保健福祉手帳1級、療育手帳A判定など
3.同居特別障害者控除
所得税:75万円
住民税:53万円
対象:特別障害者が、控除を受ける納税者またはその配偶者と同居している場合
実際の節税効果
障害者控除による実際の節税効果は、所得税率によって変わります。以下に、年収別の大まかな節税効果の目安を示します。
一般の障害者控除(所得税:27万円)の場合
課税所得195万円以下(税率5%):約1.35万円の所得税軽減
課税所得195〜330万円(税率10%):約2.7万円の所得税軽減
課税所得330〜695万円(税率20%):約5.4万円の所得税軽減
特別障害者控除(所得税:40万円)の場合
課税所得195万円以下(税率5%):約2万円の所得税軽減
課税所得195〜330万円(税率10%):約4万円の所得税軽減
課税所得330〜695万円(税率20%):約8万円の所得税軽減
同居特別障害者控除(所得税:75万円)の場合
課税所得195万円以下(税率5%):約3.75万円の所得税軽減
課税所得195〜330万円(税率10%):約7.5万円の所得税軽減
課税所得330〜695万円(税率20%):約15万円の所得税軽減
これに加えて、住民税も控除額に応じて軽減されます(住民税率は一般的に10%)。例えば、特別障害者控除の場合、住民税は約30万円軽減されます。
複数の障害がある場合
同一人物に複数の障害がある場合でも、障害者控除は重複して適用されません。最も有利な(控除額の大きい)区分で1回のみ適用されます。
ただし、家族内に複数の障害者がいる場合は、それぞれの方について控除を受けることができます。例えば、夫婦ともに障害がある場合は、それぞれについて障害者控除を適用できます。
障害者控除は他の所得控除(医療費控除や社会保険料控除など)と併用できるため、これらを組み合わせることでさらなる節税効果が期待できます。
確定申告での障害者控除の申請方法と必要書類
確定申告で障害者控除を申請するためには、適切な手続きと必要書類の準備が欠かせません。ここでは、申請方法と必要書類について、e-Taxと書面での申告それぞれのケースで解説します。
必要書類の準備
障害者控除を申請するためには、以下の書類を準備する必要があります:
1.障害の状態を証明する書類(以下のいずれか)
身体障害者手帳のコピー
精神障害者保健福祉手帳のコピー
療育手帳のコピー
障害者控除対象者認定書(自治体が発行)
障害年金証書のコピーまたは年金振込通知書
特別児童扶養手当認定通知書のコピー
2.確定申告書類
確定申告書A(または確定申告書B)
所得の種類に応じた添付書類(源泉徴収票など)
3.マイナンバー関連書類(e-Tax以外の申告の場合)
マイナンバーカードのコピーまたはマイナンバー通知カードのコピーと本人確認書類
e-Taxでの申告手順
e-Taxを利用した障害者控除の申請手順は以下の通りです:
1.e-Taxソフトまたは国税庁確定申告書作成コーナーにアクセス
マイナンバーカードとICカードリーダーがあれば、マイナポータル連携で簡単に利用できます。
マイナンバーカードがなくても、IDとパスワードで利用できます。
2.所得情報の入力
給与所得や事業所得など、前年の所得について入力します。
3.控除情報の入力
「所得から差し引かれる金額」の画面で「障害者控除」を選択します。
「障害者の区分」で、一般障害者・特別障害者・同居特別障害者のいずれかを選択します。
本人または扶養親族のどちらに障害があるかを選択します。
複数人分の障害者控除を適用する場合は、それぞれ入力します。
4.申告データの送信
入力内容を確認し、電子署名を行って送信します。
障害の証明書類は原則として提出不要ですが、後日税務署から提示や提出を求められる場合があります。必ず手元に保管しておきましょう。
書面での申告手順
書面で確定申告を行う場合の障害者控除申請手順は以下の通りです:
1.確定申告書の入手
税務署で入手するか、国税庁ホームページからダウンロードします。
2.確定申告書への記入
所得に関する情報を記入します。
「所得から差し引かれる金額の計算」欄の「障害者控除」の項目に控除額を記入します。
「障害者の数」欄に該当する障害者の人数と区分を記入します。 例:一般障害者1人、特別障害者1人の場合は、それぞれの欄に「1」と記入
3.申告書と必要書類の提出
記入した確定申告書と、障害の証明書類(コピー可)を税務署に提出します。
郵送で提出する場合は、必ず書類のコピーを取っておきましょう。
マイナンバー関連書類も忘れずに添付してください。
4.控えの保管
確定申告書の控えと、提出した書類のコピーは必ず保管しておきましょう。
申告書の提出期限は例年2月16日から3月15日までです。期限を過ぎると原則として控除が受けられなくなりますので、余裕を持って準備と申告を行いましょう。
障害者控除を最大限に活用するための5つのポイント
障害者控除をより効果的に活用するためのポイントをご紹介します。これらのポイントを押さえることで、税負担の軽減効果を最大化できます。
1.同居の有無を確認する
特別障害者と同居している場合、通常の特別障害者控除(40万円)ではなく、同居特別障害者控除(75万円)が適用されます。これにより、大幅な節税効果が期待できます。
同居の定義は、「生計を一にし、同一の家屋に起居している状態」とされています。一時的な別居(入院など)は同居とみなされることがありますが、老人ホームなどの施設に入所している場合は原則として同居とはみなされません。ただし、自治体や状況によって判断が異なる場合もありますので、詳細は税務署や税理士に確認することをおすすめします。
2.障害者控除対象者認定書の活用
高齢者の方で要介護認定を受けている場合、多くの自治体では「障害者控除対象者認定書」を発行しています。この認定書により、障害者手帳を持っていなくても障害者控除を受けることができます。
認定書の申請は、本人または家族が市区町村の福祉担当窓口で行います。必要書類としては、介護保険被保険者証や要介護認定通知書などが一般的ですが、自治体によって異なります。
特に高齢の親を扶養している方は、この制度を知らずに控除を受け損ねているケースが多いため、ぜひ確認してみてください。
3.医療費控除との併用
障害者控除は医療費控除と併用することができます。障害のある方は、治療や通院のために医療費がかさむことが多いため、両方の控除を適用することでさらなる節税効果が期待できます。
医療費控除を受けるためには、年間の医療費が10万円(所得が200万円未満の場合は所得の5%)を超える必要があります。
障害に関連する以下の費用も医療費控除の対象となる場合があります:
- 通院のための交通費
- 障害者用の特殊な医療器具の購入費
- 一定のバリアフリー改修工事費
- 特定の障害者用品の購入費
医療費控除と障害者控除の両方を申請する際は、それぞれの控除について適切に申告書に記入し、必要書類を準備することが重要です。
4.過去5年分の更正の請求
障害者控除の存在を知らなかったために申請していなかった場合でも、過去5年分までさかのぼって税金の還付を受けることができます。これを「更正の請求」といいます。
更正の請求は、確定申告期間に関わらず、いつでも行うことが可能です。請求を行うには、「更正の請求書」に必要事項を記入し、当時の状況を証明する書類(障害者手帳のコピーなど)と共に税務署に提出します。
例えば、3年前から障害者手帳を取得していたにもかかわらず、控除を受けていなかった場合、3年分の所得税還付を受けられる可能性があります。
5.扶養控除との関係を理解する
障害者を扶養している場合、一般の扶養控除に加えて障害者控除も適用できます。
例えば、障害のある成人の子を扶養している場合、以下の控除が適用できる可能性があります:
- 一般の扶養控除:38万円
- 特別障害者控除:40万円(特別障害者の場合)
これらは重複して適用できるため、合計78万円の所得控除が受けられることになります。
また、70歳以上の障害者を扶養している場合は、老人扶養控除(同居老親等の場合は58万円、その他の場合は48万円)と障害者控除の両方が適用できます。
これらの控除を適切に組み合わせることで、効果的な節税が可能になります。
よくある質問と回答
障害者控除に関するよくある疑問について、Q&A形式で解説します。
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障害者手帳の申請中ですが、控除は受けられますか?
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確定申告の時点で障害者手帳を取得していない場合でも、前年の12月31日時点で障害の状態にあり、後日手帳が交付された場合は、遡って控除を受けられる可能性があります。まずは税務署に相談し、「更正の請求」により遡及適用できるか確認しましょう。
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障害年金を受給していますが、確定申告は必要ですか?
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障害年金は非課税所得のため、障害年金のみの収入であれば確定申告は不要です。ただし、他に給与所得や事業所得などがある場合は、確定申告が必要になる場合があります。また、障害者控除を受けるためには、年末調整または確定申告で申請する必要があります。
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親が特別養護老人ホームに入所していますが、同居特別障害者控除は適用できますか?
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特別養護老人ホームなどの施設に入所している場合、原則として「同居」とはみなされません。そのため、通常の特別障害者控除(40万円)は適用できますが、同居特別障害者控除(75万円)は適用できない場合が多いです。ただし、状況によっては例外もありますので、詳細は税務署に確認することをおすすめします。
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年の途中で障害者手帳を取得した場合、控除はどうなりますか?
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障害者控除は、その年の12月31日の状況で判断されます。そのため、年の途中で障害者手帳を取得した場合でも、12月31日時点で手帳を持っていれば、その年の確定申告で満額の控除を受けることができます。
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配偶者が障害者の場合、配偶者控除と障害者控除は両方受けられますか?
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はい、配偶者が障害者である場合、配偶者控除(または配偶者特別控除)と障害者控除の両方を適用できます。例えば、控除対象配偶者(年収103万円以下)が特別障害者である場合、配偶者控除38万円と特別障害者控除40万円の合計78万円の所得控除が受けられます。
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e-Taxで確定申告する場合、障害者手帳のコピーなどの書類提出は必要ですか?
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e-Taxで確定申告する場合、原則として障害者手帳などの証明書類の提出は不要です。ただし、後日税務署から提示や提出を求められることがありますので、必ず手元に保管しておくことが重要です。
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まとめ:障害者控除を活用して税負担を軽減しよう
この記事では、確定申告における障害者控除の基本から応用まで、幅広く解説してきました。
ポイントをまとめると以下の通りです:
1.障害者控除の基本を理解する
- 一般の障害者控除(27万円)、特別障害者控除(40万円)、同居特別障害者控除(75万円)の3種類があります。
- 障害者手帳や障害年金受給者だけでなく、要介護認定を受けている高齢者なども対象となる可能性があります。
2.申請方法を押さえる
- 控除は自動的には適用されず、確定申告または年末調整で申請する必要があります。
- 必要書類(障害者手帳のコピーなど)を準備し、適切に申告書に記入しましょう。
3.効果的な活用法を実践する
- 同居の有無を確認し、該当する場合は同居特別障害者控除を申請しましょう。
- 障害者控除対象者認定書の活用、医療費控除との併用、過去5年分の更正の請求などの方法で、節税効果を最大化できます。
4.専門家のサポートを活用する
- 不明点や複雑なケースでは、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
- 自治体の税務相談窓口や福祉課でも相談することができます。
障害者控除は、障害のある方やそのご家族の経済的負担を軽減するための重要な制度です。ただし、適切に申請しなければ恩恵を受けることができません。この記事の情報を参考に、ご自身の状況に合った最適な申請を行い、税負担の軽減に役立ててください。
最後に、税制は毎年変更される可能性があります。最新の情報は国税庁のウェブサイトや税務署で確認することをおすすめします。また、個別の状況によっては対応が異なる場合もありますので、不明点があれば専門家に相談することが大切です。
この記事の内容は2025年5月時点の情報に基づいています。税制改正などにより内容が変更される可能性がありますので、最新情報は必ず公的機関や専門家にご確認ください。