はじめに:障害年金の等級制度について
障害年金は、病気やケガによって生じた障害により、日常生活や仕事に支障をきたす状態になった場合に支給される公的年金制度です。
この制度では、障害の程度に応じて1級、2級、3級という等級が設けられており、それぞれの等級によって受給額や認定基準が異なります。
本記事では、障害年金の各等級における受給額と認定基準の違いについて詳しく解説します。これにより、自身や家族の状況に応じた適切な等級の申請や、現在の等級の妥当性の確認に役立つ情報を提供します。
障害年金の等級とは?
障害年金の等級は、障害の程度を表す指標であり、1級、2級、3級の3段階に分かれています。等級が上がるほど障害の程度が重いとみなされ、受給額も高くなります。
等級の概要
- 1級:日常生活に常時介護を要する程度の障害
- 2級:日常生活が著しく制限される程度の障害
- 3級:労働が制限される程度の障害
なお、3級は障害厚生年金のみに存在し、障害基礎年金には1級と2級のみが設定されています。
1級の障害年金:認定基準と受給額
1級の認定基準
1級の障害は、最も重度の障害を指します。具体的には、以下のような状態が該当します:
- 両眼の視力の和が0.04以下のもの
- 両上肢の機能に著しい障害を有するもの
- 両下肢の機能に著しい障害を有するもの
- 体幹の機能に座っていることができない程度又は立ち上がることができない程度の障害を有するもの
- 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
- 精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの
- 身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの
1級の受給額
1級の障害基礎年金の年間支給額は、2級の1.25倍となっています。
令和6年度の場合、以下のようになります。
- 障害基礎年金1級:年額 1,020,000円
- 障害厚生年金1級:障害基礎年金1級 + 報酬比例部分 × 1.25
さらに、18歳未満の子どもがいる場合は、1人目と2人目はそれぞれ年額234,800円、3人目以降は年額78,300円が加算されます。
42級の障害年金:認定基準と受給額
2級の認定基準
2級の障害は、1級ほどではないものの、日常生活が著しく制限される程度の障害を指します。
具体的には以下のような状態が該当します。
- 両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの
- 一上肢の機能に著しい障害を有するもの
- 一下肢の機能に著しい障害を有するもの
- 両下肢の機能に相当程度の障害を有するもの
- 体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの
- 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
- 精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの
- 身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの
2級の受給額
2級の障害基礎年金の年間支給額は、令和6年度の場合、以下のようになります。
- 障害基礎年金2級:年額 816,000円
- 障害厚生年金2級:障害基礎年金2級 + 報酬比例部分
1級と同様に、18歳未満の子どもがいる場合は加算があります。
3級の障害年金:認定基準と受給額
3級の認定基準
3級の障害は、労働が制限される程度の障害を指します。3級は障害厚生年金にのみ存在し、障害基礎年金にはありません。具体的には以下のような状態が該当します。
- 両眼の視力が0.1以下に減じたもの
- 両耳の聴力が、40センチメートル以上では通常の話声を解することができない程度に減じたもの
- 咀嚼又は言語の機能に相当程度の障害を残すもの
- 脊柱の機能に著しい障害を残すもの
- 一上肢の三大関節のうち、二関節の機能に著しい障害を残すもの
- 一下肢の三大関節のうち、二関節の機能に著しい障害を残すもの
- 長管状骨に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの
- 前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
- 精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
- 傷病が治らないで、身体の機能又は精神若しくは神経系統に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものであって、厚生労働大臣が定めるもの
3級の受給額
3級の障害厚生年金の年間支給額は、報酬比例部分のみとなります。ただし、最低保障額が設定されており、令和6年度の場合、以下のようになります。
- 障害厚生年金3級:報酬比例部分(最低保障額:年額 612,000円)
等級間の違いと境界線
障害年金の等級間には明確な違いがありますが、実際の認定においては境界線上のケースも少なくありません。主な違いは以下の通りです。
- 1級と2級の違い:1級は「常時介護を要する状態」、2級は「日常生活が著しく制限される状態」が目安となります。
- 2級と3級の違い:2級は「日常生活に著しい制限がある状態」、3級は「労働に著しい制限がある状態」が目安となります。
境界線上のケースでは、日常生活や労働における具体的な制限の度合いが重要な判断基準となります。また、複数の障害が重複する場合は、その総合的な影響が考慮されます。
障害年金の等級が変更される可能性
障害年金の等級は固定されたものではなく、障害の状態に変化があった場合には変更される可能性があります。
等級が上がる可能性
症状が悪化した場合、より上位の等級に変更される可能性があります。この場合、診断書を提出し、再度の診断を受ける必要があります。定期的に行われる「障害状態確認」の結果によって変更される場合もあります。
等級が下がる可能性
症状が改善した場合、等級が下がったり、場合によっては支給停止になる可能性もあります。定期的に行われる「障害状態確認」の結果によって判断されます。
注意点
等級の変更は、生活に大きな影響を与える可能性があるため、日頃から自身の障害の状態を適切に把握し、必要に応じて医師に相談することが重要です。
障害年金の等級と就労の関係
障害年金の受給者が就労することは可能ですが、等級によって就労による影響が異なる場合があります。
1級・2級の場合
20歳前の傷病による1級と2級の障害基礎年金受給者の場合、所得額により全額または2分の1の年金額が支給停止される場合があります。
3級の場合
3級の障害厚生年金受給者の場合、就労による直接の収入制限はありませんが、障害の程度が改善したと判断された場合、等級の見直しや支給停止の可能性があります。
就労と等級の関係
就労することで障害の状態が改善したと判断された場合、等級が下がる可能性があります。一方で、就労が困難になった場合は、等級が上がる可能性もあります。定期的な「障害状態確認」においては、就労状況も考慮されます。
障害年金の等級認定における注意点
障害年金の等級認定を受ける際には、以下の点に注意が必要です。
- 正確な診断書の作成:等級認定の基礎となる診断書は、障害の状態を正確に反映したものである必要があります。
- 日常生活状況の詳細な記載:「診断書」だけでなく、「病歴・就労状況等申立書」にも、日常生活における具体的な制限を詳細に記載することが重要です。
- 複数の障害がある場合の総合的評価:複数の障害がある場合、それぞれの障害を総合的に評価して等級が決定されます。
- 定期的な状態確認:等級認定後も定期的に「障害状態確認届」の提出が必要です。状態の変化を適切に報告することが重要です。
- 専門家への相談:等級認定の申請や更新時には、社会保険労務士や障害年金専門家に相談することで、適切な手続きや書類作成のアドバイスを受けられます。
- 審査・再審査請求の可能性:認定結果に納得がいかない場合、審査請求や再審査請求を行うことができます。この際も専門家のサポートを受けることが有効です。
まとめ:障害年金の等級制度の重要性と活用
障害年金の等級制度は、障害の程度に応じて適切な支援を行うための重要な仕組みです。1級、2級、3級の各等級には明確な違いがあり、それぞれの認定基準と受給額が定められています。
本記事で解説した主なポイントを以下にまとめます。
- 1級は最も重度の障害で、常時介護を要する状態を指します。
- 2級は日常生活が著しく制限される状態を指します。
- 3級は労働が制限される状態を指し、障害厚生年金にのみ存在します。
- 等級によって受給額が異なり、1級が最も高額となります。
- 障害の状態変化により等級が変更される可能性があります。
- 就労は可能ですが、収入や障害の状態によって年金額や等級に影響を与える場合があります。
- 等級認定には正確な診断書や日常生活状況の詳細な記載が重要です。
障害年金の等級制度を正しく理解し活用することで、障害のある方々がより適切な支援を受け、安定した生活を送ることができます。しかし、等級認定の過程は複雑で、個々の状況によって判断が異なる場合もあります。
そのため、障害年金の申請や更新を考えている方は、以下の行動をお勧めします。
- 自身の障害の状態を客観的に評価し、詳細に記録する
- かかりつけの医師と相談し、適切な診断書の作成を依頼する
- 年金事務所や社会保険労務士に相談し、申請手続きのアドバイスを受ける
- 定期的に障害の状態を確認し、変化があれば速やかに報告する
- 就労を考えている場合は、年金への影響を事前に確認する
障害年金の等級制度は、障害のある方々の生活を支える重要な社会保障制度の一つです。この制度を適切に活用することで、障害があっても社会参加の機会を広げ、より充実した生活を送ることができます。
おわりに
障害年金の等級制度は、一見複雑に見えるかもしれません。しかし、この制度の目的は、障害のある方々にとって最適な支援を提供することにあります。自身の状況に最も適した等級を受けることで、必要な支援を確実に受けられるようになります。
また、障害の状態は時間とともに変化する可能性があります。そのため、定期的な状態確認と、必要に応じた等級の見直しが重要です。これにより、その時々の状況に応じた適切な支援を継続的に受けることができます。
障害年金に関する疑問や不安がある場合は、年金事務所や社会保険労務士など、専門家に相談することをお勧めします。正確な情報と適切なアドバイスを得ることで、より良い生活の実現につながるはずです。
障害があっても、誰もが社会の一員として尊重され、自分らしく生きていける社会の実現。それこそが、障害年金制度の究極の目的であり、私たち一人ひとりが目指すべき社会の姿なのです。