慢性腎不全(人工透析)で障害年金は受給できる?
申請条件と手続きの完全ガイド

慢性腎不全により人工透析を受けている方やそのご家族にとって、透析導入後の生活や経済面での不安は大きな課題です。「人工透析を受けていても障害年金はもらえるのか」「透析と障害年金の関係がわからない」「申請手続きが複雑でどこから始めればいいかわからない」「認定されるかどうか不安」といった疑問を抱える方も多いのが現状です。

この記事では、慢性腎不全(人工透析)による障害年金について、受給の可能性から具体的な申請方法、認定のポイントまで、専門家の視点から詳しく解説します。読み終える頃には、障害年金申請への明確な道筋が見えてくるはずです。

慢性腎不全(人工透析)でも障害年金は受給できるのか?

結論から申し上げると、慢性腎不全により人工透析を受けている方は障害年金の受給が可能です。厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」において、人工透析療法は「腎疾患による障害」として明確に対象疾患に含まれており、透析導入により原則として2級以上の認定が可能です。

厚生労働省「令和6年度 障害年金の支給状況」によると、腎疾患による障害年金受給者数は安定的に推移しており、人工透析患者の多くが適切な申請により受給されています。人工透析の場合、透析導入の事実が客観的に証明しやすく、他の疾患と比較して認定率も極めて高い傾向にあります。

重要なのは、人工透析が生命維持に必要不可欠な治療であり、週3回、1回4時間程度の透析により生活が大きく制限されるという点です。透析は単なる治療ではなく、腎臓という重要な臓器の機能を人工的に代替する終生にわたる治療であり、日常生活や就労に著しい制限をもたらします。

また、慢性腎不全は糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎等、様々な原因により発症し、透析導入に至る経過も多様です。原疾患の種類や重症度、合併症の有無等も含めて総合的に評価されます。さらに、透析導入後も貧血、骨代謝異常、心血管合併症等の様々な合併症により、日常生活能力が更に制限される場合があります。

慢性腎不全(人工透析)の障害年金受給条件とは

慢性腎不全(人工透析)で障害年金を受給するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります(国民年金法第30条、厚生年金保険法第47条)。

1. 初診日要件

腎疾患で初めて医師の診療を受けた日(初診日)において、いずれかの年金制度に加入していることが必要です:

国民年金加入者の場合

  • 原則、20歳以上60歳未満の日本国内居住者
  • 厚生年金の被保険者でない方

厚生年金加入者の場合

  • 会社員、公務員、私学教職員等の組合員
  • 70歳未満で老齢年金を受給していない方

2. 保険料納付要件

初診日の前日において、以下のいずれかを満たしていることが必要です(国民年金法第30条第1項):

原則

保険料納付済期間と免除期間を合わせて加入期間の3分の2以上

特例(令和18年4月1日前の初診日の場合)

初診日において65歳未満で、初診日の前々月までの直近1年間に保険料の未納がない

3. 障害状態要件

障害認定日において、障害等級表に定める1級から3級のいずれかの状態に該当することが必要です。人工透析の場合、透析導入日から起算して3月を経過した日が障害認定日となります(国民年金法施行令第4条の6)。

慢性腎不全における障害等級の判定基準

慢性腎不全の障害年金における等級判定は、腎機能、透析療法の状況、日常生活動作能力、就労能力等を総合的に評価して行われます(厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第8章)。

1級の判定基準

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものです:

腎機能・透析の状態

  • 人工透析療法施行中で、かつ日常生活動作が著しく制限される
  • 透析効率が不良で頻回の透析が必要
  • 重篤な合併症(心不全、脳血管障害等)を有する

具体的状況

  • ベッド周辺での生活が主体
  • 入浴、着替えに全面的な介助が必要
  • 階段昇降は不可能
  • 平地歩行も短距離で休息が必要
  • 透析による体力消耗が著しく、透析後の回復に長時間を要する

検査所見例

  • 血清クレアチニン 8.0mg/dl以上
  • 内因性クレアチニンクリアランス10ml/分未満

2級の判定基準

身体の機能に相当程度の障害を有するもので、労働が著しい制限を受ける、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものです:

腎機能・透析の状態

  • 人工透析療法を継続して行っている
  • 週3回、1回4時間程度の透析が必要
  • 透析により日常生活動作に中等度の制限
  • eGFR 10ml/min/1.73㎡未満

具体的状況

  • 家事や軽労働は部分的に可能
  • 透析日は就労困難
  • 透析後の疲労により活動が制限される
  • 週40時間のフルタイム就労は困難
  • 水分制限、食事制限により社会活動に制限

検査所見例

  • 血清クレアチニン 5.0~8.0mg/dl
  • 内因性クレアチニンクリアランス10~20ml/分

3級の判定基準(厚生年金のみ)

労働が著しい制限を受ける、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものです:

腎機能・透析の状態

  • 人工透析療法導入前の保存期慢性腎不全
  • または透析導入直後で安定していない状態
  • eGFR 10~20ml/min/1.73㎡

具体的状況

  • デスクワーク等の軽労働は概ね可能
  • 重労働や長時間労働は困難
  • 通院頻度が多く就労時間に制限
  • 食事制限、水分制限による社会活動の制限

人工透析特有の考慮事項

透析療法による生活制限

人工透析患者は以下の制限があります:

  • 週3回、1回4時間の透析による時間的制約
  • 透析後の疲労による活動制限
  • シャント管理による身体活動制限
  • 感染予防のための生活制限

食事・水分制限

  • 蛋白質制限(1日50~60g程度)
  • 塩分制限(1日6g未満)
  • 水分制限(前回透析からの体重増加2~3kg以内)
  • カリウム制限、リン制限

合併症による制限

  • 透析性貧血による易疲労性
  • 骨代謝異常(骨粗鬆症、関節痛)
  • 心血管合併症(心不全、狭心症等)
  • 神経系合併症(透析脳症、末梢神経障害)

社会生活への影響

  • 旅行や出張の制限(透析施設の確保が必要)
  • 災害時の透析確保への不安
  • 就労時間の制限
  • 社会活動参加の制限

腎疾患の初診日と障害認定日について

慢性腎不全(人工透析)の障害年金申請において、初診日と障害認定日の特定は極めて重要です。

初診日の考え方

原疾患による判断

慢性腎不全の原因となった疾患で初めて医師の診療を受けた日が初診日となります:

  • 糖尿病性腎症:糖尿病で初めて受診した日
  • 慢性糸球体腎炎:血尿・蛋白尿で初めて受診した日
  • 高血圧性腎硬化症:高血圧で初めて受診した日
  • 多発性嚢胞腎:腎嚢胞を指摘された日
  • 薬剤性腎障害:原因薬剤投与開始前の最後の受診日

健康診断での発見

健康診断で腎機能異常を指摘され、精密検査を受けた場合は、その精密検査を受けた日が初診日となります。

継続性の原則

同一傷病または因果関係のある傷病については、最初の医師の診療を受けた日が初診日となります。例えば、糖尿病の診断から糖尿病性腎症の発症、透析導入に至るまでは一連の経過として扱われます。

障害認定日の特定

人工透析の場合

透析導入日(初回透析実施日)から起算して3月を経過した日が障害認定日となります(国民年金法施行令第4条の6第1項第7号)。これは人工透析導入により永続的な身体の障害状態が確定したとみなされるためです。

具体例

  • 透析導入日:令和6年4月15日
  • 障害認定日:令和6年7月15日(3月経過日)

診断書作成時期

診断書は障害認定日から3ヶ月以内のものまたは提出日前3ヶ月以内のものが必要です(国民年金法施行規則第34条)。この期間内の透析状況、検査データ、合併症の状況を記載した診断書を作成することが重要です。

保存期慢性腎不全の場合

透析導入前の保存期慢性腎不全で申請する場合は、初診日から1年6月を経過した日が障害認定日となります。

申請に必要な書類と準備すべきもの

慢性腎不全(人工透析)の障害年金申請には、以下の書類が必要です(日本年金機構「障害年金ガイド」)。

必須書類

1. 年金請求書

  • 障害基礎年金用または障害厚生年金用
  • 初診日の年金加入状況により使い分け

2. 診断書(腎疾患・肝疾患・糖尿病用)

  • 障害認定日から3ヶ月以内のものまたは提出日前3ヶ月以内のもの

3. 受診状況等証明書

  • 初診日を証明する書類
  • 初診医療機関で作成

4. 病歴・就労状況等申立書

  • 発症から現在までの詳細な経過
  • 日常生活や就労への影響を具体的に記載

添付書類

  • 年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 振込先金融機関の通帳等

診断書作成のポイントと医師との連携

診断書は障害年金審査における最重要書類です。慢性腎不全(人工透析)の特性を適切に反映した記載が必要です。

医師に伝えるべき情報

腎機能・透析について

医師には以下の項目について、透析導入がどのように影響しているかを具体的に伝えましょう:

1. 透析状況

透析頻度、時間、効率、合併症の有無

2. 原疾患

慢性腎不全の原因疾患と重症度

3. 日常生活動作

透析による時間的制約と体力的制限

4. 就労能力

透析日の就労困難性と体力的制限

5. 合併症

貧血、骨代謝異常、心血管合併症等の影響

具体的な症状・制限の伝達

医師には日常生活での具体的な制限を伝えることが重要です:

「透析日(月・水・金)は午前9時から午後1時まで透析を受けており、その日の就労は不可能」
「透析後は強い疲労感があり、帰宅後2-3時間の安静が必要」
「水分制限により、前回透析からの体重増加を2kg以内に抑える必要があり、食事や水分摂取に常に気を遣っている」
「シャント部位の感染予防のため、重いものを持つ作業や外傷の危険がある作業は避けている」

診断書記載の重要ポイント

透析状況の詳細記載

人工透析の障害年金では、以下の透析情報が重要な判断材料となります:

透析処方

  • 透析頻度(週3回が標準)
  • 透析時間(1回4時間が標準)
  • 血流量(200-300ml/min程度)
  • 透析液流量(500ml/min程度)

透析効率

  • Kt/V(1.2以上が目標)
  • 尿素除去率(65%以上が目標)
  • 除水量と除水率
  • ドライウェイトの設定

腎機能評価

  • 血清クレアチニン値
  • 推定糸球体濾過量(eGFR)
  • 血清尿素窒素(BUN)
  • 残腎機能の有無

合併症の記載

透析患者に特有の合併症とその程度:

  • 透析性貧血(ESA製剤の使用状況)
  • 骨代謝異常(活性型ビタミンD製剤の使用)
  • 心血管合併症(左室肥大、動脈硬化等)
  • 栄養障害(低アルブミン血症等)

日常生活制限の具体的記載

透析による生活制限の詳細:

  • 透析日の活動制限
  • 透析後の疲労回復時間
  • 水分・食事制限による社会活動への影響
  • シャント管理による身体活動制限

病歴・就労状況等申立書の書き方

慢性腎不全(人工透析)の病歴・就労状況等申立書は、発症から透析導入、現在までの経過と生活への影響を詳しく記載する重要な書類です。

記載すべき内容

発症から診断まで

  • 初期症状の出現時期と内容(浮腫、尿量減少、倦怠感等)
  • 受診のきっかけ(健康診断での指摘、症状悪化等)
  • 確定診断に至るまでの検査経過
  • 診断時の腎機能と重症度

保存期治療から透析導入まで

  • 保存期治療の内容と期間
  • 食事療法、薬物療法の実施状況
  • 腎機能悪化の経過
  • 透析導入の決定に至った経緯

透析導入後の経過

  • 透析導入時の状況と合併症の有無
  • シャント造設の経過
  • 透析条件の調整経過
  • 現在の透析状況と合併症の状況

効果的な記載のコツ

時系列での整理

発症から現在まで時系列で整理し、重要な出来事や症状の変化を明確に記載します:

発症期(例)

「令和2年の健康診断で血清クレアチニン1.8mg/dlと腎機能低下を指摘。糖尿病歴15年あり、糖尿病性腎症と診断された」

保存期(例)

「令和4年頃からeGFR 20ml/min/1.73㎡台まで低下。蛋白制限食(40g/日)、塩分制限(6g/日)を開始したが、腎機能は徐々に悪化」

透析導入期(例)

「令和6年4月、eGFR 8ml/min/1.73㎡まで低下し、尿毒症症状出現のため人工透析導入。週3回、1回4時間の血液透析を開始」

現在(例)

「現在も週3回の透析継続中。透析日は就労不可能で、透析後は強い疲労のため2-3時間の安静が必要な状態が継続」

日常生活への具体的影響

透析導入後の日常生活制限を具体的に記載します:

時間的制約

「週3回(月・水・金)、朝9時から午後1時まで透析を受けており、その日は就労不可能」
「透析前後の準備・移動時間を含めると、透析日は1日の大半が透析関連で占められる」
「透析後は疲労が強く、帰宅後2-3時間は横になって休息が必要」

身体的制約

「シャント部位(左前腕)に重圧をかけられないため、重いものを持つ作業は避けている」
「透析性貧血(Hb 9.5g/dl)により、少しの労作でも息切れが出現する」
「水分制限により、前回透析からの体重増加を2kg以内に抑える必要があり、常に体重管理に気を遣っている」

就労への影響

「透析日は就労不可能なため、フルタイム勤務から週2日のパート勤務に変更せざるを得なかった」
「透析後の疲労により、透析日以外も体力的に制限があり、長時間の立ち仕事は困難」
「月1回の定期受診、3ヶ月ごとのシャント評価等で頻回の通院が必要」

社会生活への影響

「旅行時は事前に現地の透析施設の確保が必要で、自由な外出・旅行が困難」
「災害時の透析確保への不安から、避難計画や非常時の準備に常に気を遣っている」
「食事制限(蛋白質、塩分、カリウム、水分)により、外食や社会的な食事の機会が制限される」

申請手続きの流れと注意点

慢性腎不全(人工透析)の障害年金申請から決定までの具体的な流れをご説明します。

Step1:事前準備期間(1-2ヶ月)

医療記録の収集

  • 初診医療機関での受診状況等証明書取得
  • 透析導入医療機関での診断書作成依頼
  • 原疾患の診療記録の収集

申立書の作成

  • 発症から現在までの詳細な経過整理
  • 日常生活や就労への影響の具体的記載
  • 家族からの聞き取りによる客観的情報の収集

Step2:書類提出(即日)

提出先

  • 国民年金:市区町村の年金担当窓口または年金事務所
  • 厚生年金:年金事務所または共済組合

提出時の注意点

  • 受付印のある控えを必ず受領
  • 不備書類の有無を確認
  • 追加資料の提出可能性について確認

Step3:審査期間(3-4ヶ月)

日本年金機構または共済組合の障害年金審査医員による書面審査が実施されます。腎疾患の場合、透析導入の事実確認と合併症の評価が主な審査ポイントとなり、審査期間は標準的な3-4ヶ月程度となることが多いです。

Step4:結果通知

支給決定の場合

  • 年金証書と年金支払通知書が送付
  • 障害認定日または提出日の翌月分から支給開始
  • 初回振込は認定から1-2ヶ月後

不支給決定の場合

  • 不支給決定通知書が送付
  • 審査請求(不服申立て)の権利あり
  • 請求期限は決定を知った日の翌日から3ヶ月以内

人工透析特有の注意点

障害認定日請求が原則

人工透析の場合、透析導入から3ヶ月経過日が障害認定日となるため、通常は障害認定日請求となります。透析導入により2級以上の認定が期待できます。

定期的な現況報告

障害年金受給決定後も、1-5年ごとに障害状態確認届(診断書)の提出が必要です。人工透析患者の場合、透析状況の変化、合併症の出現・改善、腎移植の実施等を継続的に報告する必要があります。

腎移植による影響

腎移植を受けた場合、移植腎の生着状況により障害等級が変更される可能性があります。移植後の免疫抑制療法や合併症の状況も含めて総合的に評価されます。

認定率を上げるための対策

慢性腎不全(人工透析)の障害年金認定率を向上させるための具体的な対策をご紹介します。

医師との効果的な連携

腎臓専門医の診断書取得

可能であれば、腎疾患を専門とする医師(腎臓内科医、人工透析専門医等)の診断書を取得することが望ましいです。専門医の診断書は医学的信頼性が高く、審査において重要視されます。

継続的な透析管理の記録

定期的な透析効率評価と合併症管理の記録が重要です:

  • 透析効率の指標(Kt/V、尿素除去率等)の推移
  • 合併症(貧血、骨代謝異常、心血管疾患等)の管理状況
  • 薬物療法(ESA製剤、活性型ビタミンD等)の使用状況
  • 栄養状態の評価と管理

客観的証拠の効果的活用

透析記録の詳細化

透析の実施状況を客観的に示すために重要な記録:

透析処方記録

  • 透析頻度と時間の詳細
  • 血流量、透析液流量の設定
  • 除水量と除水率
  • ヘパリン使用量

透析効率評価

  • Kt/V値の継続的測定
  • 尿素除去率の評価
  • 残腎機能の推移
  • ドライウェイトの調整記録

合併症管理記録

透析患者特有の合併症とその管理状況:

  • 透析性貧血とESA製剤の効果
  • 二次性副甲状腺機能亢進症の管理
  • 心血管合併症のスクリーニング結果
  • 感染症の既往と予防対策

書類作成の質的向上

具体性と客観性の重視

抽象的な表現を避け、具体的で客観的な記載を心がけます:

良い例

「週3回(月・水・金)の透析により、透析日は朝9時から午後1時まで透析室にいるため就労不可能。透析後は強い疲労感があり、帰宅後2-3時間の安静が必要で、その日の活動は著しく制限される」

悪い例

「透析で疲れるので仕事ができない」

数値データの効果的活用

客観的な数値を用いて病状を明確に示します:

  • 血清クレアチニン値:8.5mg/dl(正常値0.6-1.2mg/dl)
  • eGFR:6ml/min/1.73㎡(正常値90ml/min/1.73㎡以上)
  • ヘモグロビン値:8.8g/dl(正常値12-16g/dl)
  • 透析効率Kt/V:1.1(目標値1.2以上)

一貫性のある記載

診断書と申立書の整合性、時系列の一致、症状の一貫性を保つことが重要です。医師の診断書と申請者の申立書で矛盾する記載があると、審査に悪影響を与える可能性があります。

専門家に依頼するメリット・デメリット

慢性腎不全(人工透析)の障害年金申請において、専門家への依頼を検討する際の判断材料をご紹介します。

専門家依頼を推奨するケース

複雑な医学的状況

  • 複数の原疾患が関与している場合(糖尿病性腎症+高血圧性腎硬化症等)
  • 腎移植歴がある場合
  • 重篤な合併症を併存している場合(心不全、脳血管障害等)
  • 透析導入後に重大な合併症が発生した場合

初診日の特定が困難

  • 複数の医療機関を受診し、初診日の特定が困難
  • 糖尿病等の原疾患の初診から長期間経過している場合
  • 医療機関の廃院等により記録の入手が困難
  • 健康診断での指摘から透析導入まで長期間の経過がある場合

過去の申請で不支給

  • 以前の申請で不支給決定を受けた場合(稀ですが発生することがある)
  • 審査請求や再審査請求を検討している場合
  • 他の疾患での申請経験があるが認定されなかった場合

専門家依頼のメリット

専門知識と豊富な経験

  • 腎疾患・透析療法の障害年金申請に関する専門的知見
  • 透析導入特有の認定ポイントの理解
  • 認定されやすい診断書作成のアドバイス
  • 審査の傾向を踏まえた対策立案
  • 合併症や原疾患との関連性の適切な整理

手続きの負担軽減

  • 複雑な書類作成の支援・代行
  • 医療機関との連携サポート
  • 年金事務所との折衝代行
  • 家族の精神的・時間的負担の軽減

高い成功率

  • 専門家の適切な指導により認定率向上
  • 不支給の場合の審査請求サポート
  • 長期的な年金受給の最適化
  • 等級変更請求等の適切なタイミング判断

専門家依頼のデメリット

費用負担

慢性腎不全(人工透析)の障害年金申請の専門家依頼には以下の費用が発生します:

相談料

  • 初回相談:無料〜1万円程度
  • 継続相談:5千円〜1万円程度

着手金

  • 無料〜5万円程度(事務所により大きく異なる)

成功報酬

  • 受給決定額の10〜20%程度
  • 初回振込額の2ヶ月分程度が相場

依頼先選択の重要性

専門性の確認

すべての専門家が腎疾患・透析療法の障害年金申請に精通しているわけではありません。以下の点を確認することが重要です:

  • 腎疾患の障害年金申請実績
  • 透析患者の事例取扱い経験
  • 医学的知識の程度(透析療法、合併症等)
  • 医療機関との連携体制

信頼性の判断

  • 社会保険労務士等の有資格者であること
  • 過去の実績と成功率の開示
  • 費用体系の明確性
  • 相談時の対応の丁寧さ
  • 医学的知識の正確性

自分で申請する場合の留意点

十分な準備期間の確保

慢性腎不全(人工透析)の障害年金申請は比較的認定率が高いものの、適切な書類作成のため、十分な準備期間(2-4ヶ月程度)を確保し、制度の理解、必要書類の準備、医師との連携を丁寧に行うことが重要です。

制度の正確な理解

  • 障害認定日の特定方法(透析導入日から3月経過日)
  • 腎疾患の認定基準(透析導入で原則2級以上)
  • 必要書類の内容と作成方法
  • 申請から決定までの流れ
  • 合併症の評価方法

医学的知識の習得

  • 慢性腎不全の基礎知識
  • 透析療法の基本的な内容
  • 透析効率の評価方法
  • 主要な合併症の理解

まとめ

慢性腎不全(人工透析)による障害年金は、適切な準備と手続きにより受給可能な重要な支援制度です。

受給の可能性について

人工透析は障害年金の明確な対象疾患であり、透析導入により原則として2級以上の認定が可能です。透析は生命維持に必要不可欠な治療であり、週3回、1回4時間程度の透析により日常生活と就労に著しい制限が生じることが客観的に認められています。重要なのは透析導入の事実そのものであり、原疾患の種類や年齢に関係なく、適切な申請により受給の可能性が極めて高い疾患です。

障害認定日の特例活用

人工透析の場合、透析導入日から起算して3月を経過した日が障害認定日となる特例があります。この制度により、透析導入後比較的早期に申請が可能となり、認定されれば障害認定日の翌月から年金の支給が開始されます。診断書は障害認定日以降3ヶ月以内の現症である必要があるため、適切なタイミングでの作成が重要です。透析導入により永続的な障害状態が確定したとみなされるため、基本的には障害認定日請求を行うべきです。

成功のための重要ポイント

認定獲得の鍵となるのは、透析導入記録を含む詳細な医療記録の収集、継続的な透析管理記録の蓄積、腎臓専門医との密な連携による適切な診断書作成、具体的で客観的な申立書の記載、透析効率や合併症評価の効果的活用です。特に透析による時間的制約(週3回、1回4時間)、透析後の疲労、水分・食事制限、シャント管理等の日常生活への具体的な影響を詳細に示すことが重要となります。

専門家活用の価値

複雑な医学的状況、複数の原疾患の関与、腎移植歴、初診日特定の困難性がある場合には、専門家への依頼を検討することをお勧めします。ただし、人工透析の障害年金申請は比較的認定率が高く、制度も明確であるため、多くの場合は自分での申請も可能です。費用対効果を十分に検討した上で、必要に応じて信頼できる専門家を選択することが重要です。

継続的な管理の重要性

透析患者は、障害年金受給後も定期的な現況報告が必要です。透析状況の変化、合併症の出現・改善、腎移植の実施等を継続的に記録し、適切に報告することで、長期的な年金受給の継続が可能となります。また、症状の悪化や新たな合併症の出現時には、等級変更請求等の手続きも検討できます。腎移植を受けた場合は、移植腎の生着状況や免疫抑制療法の状況により等級が変更される可能性があります。

社会復帰への支援

人工透析は確かに大きな生活制限をもたらしますが、適切な管理により多くの方が社会復帰を果たしています。障害年金は透析治療期間中の経済的支援として活用し、可能な範囲での社会参加や就労を目指すことが重要です。透析日以外の就労、在宅ワーク、短時間勤務等、個々の状況に応じた働き方を模索することで、充実した社会生活を送ることが可能です。

医療技術の進歩と将来展望

透析技術の進歩により、在宅血液透析、腹膜透析等の選択肢も広がっています。また、再生医療や人工腎臓の研究も進んでおり、将来的には治療選択肢の拡大が期待されます。障害年金は現在の医療水準における支援制度として活用し、医療技術の進歩に応じた治療選択を検討することが重要です。

慢性腎不全により人工透析を受けている方やそのご家族は、一人で悩まず、まずは正しい情報収集から始めてください。透析導入という大きな人生の転換点を迎えられた皆様が、障害年金制度の支援により、より安心して透析治療を継続し、可能な限り充実した社会生活を送れるよう、制度を有効活用していただくことを心より願っています。

透析導入は確かに大きな変化ですが、現代の透析技術により多くの方が長期間にわたり安定した生活を送っています。経済的な不安を軽減し、治療に専念できる環境を整えるために、障害年金制度を積極的に活用し、前向きに治療と生活に取り組まれることをお勧めいたします。

※本記事の情報は最終更新日時点のものです。最新の制度内容については、日本年金機構または年金事務所にご確認ください。

慢性腎不全(人工透析)の事例紹介を見る ≫