人工関節・人工骨頭で障害年金は受給できる?
認定基準と申請手続きの完全ガイド

人工関節や人工骨頭を装着された方やそのご家族にとって、手術後の生活や経済面での不安は大きな課題です。「人工関節を入れても障害年金はもらえるのか」「どの程度の機能障害があれば認定されるのか」「申請手続きが複雑でどこから始めればいいかわからない」といった疑問を抱える方も多いのが現状です。

この記事では、人工関節・人工骨頭装着による障害年金について、受給要件から具体的な認定基準、部位別の評価方法、申請手続きまで、専門家の視点から詳しく解説します。読み終える頃には、障害年金申請への明確な道筋と、ご自身の状況での受給可能性が見えてくるはずです。

人工関節・人工骨頭でも障害年金は受給できるのか?

結論から申し上げると、人工関節・人工骨頭装着により障害年金の受給は可能です。厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」において、人工関節・人工骨頭装着は「肢体の障害」として明確に対象に含まれており、装着部位や術後の機能障害の程度により1級から3級までの認定が可能です。

厚生労働省「令和6年度 障害年金の支給状況」によると、肢体の障害による障害年金受給者数は年間約15万人に上り、人工関節・人工骨頭装着者も適切な申請により多くの方が受給されています。人工関節・人工骨頭装着の場合、手術の事実が客観的に証明しやすく、レントゲン画像等により明確に確認できるため、認定基準も比較的明確です。

重要なのは、人工関節・人工骨頭を装着したという事実だけでなく、装着後の関節機能や日常生活動作能力がどの程度制限されているかという点です。

人工関節・人工骨頭装着の原因疾患も多岐にわたります。変形性関節症、関節リウマチ、大腿骨頭壊死症、骨折後の変形治癒、先天性股関節脱臼の後遺症など、それぞれの疾患により手術に至った経緯や術後の機能回復の程度が異なります。いずれの疾患であっても、認定基準を満たせば障害年金の対象となります。

人工関節・人工骨頭の障害年金受給条件とは

人工関節・人工骨頭で障害年金を受給するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります(国民年金法第30条、厚生年金保険法第47条)。

1. 初診日要件

人工関節・人工骨頭装着の原因となった疾患で初めて医師の診療を受けた日(初診日)において、いずれかの年金制度に加入していることが必要です:

国民年金加入者の場合

原則、20歳以上60歳未満の日本国内居住者

厚生年金加入者の場合

・会社員、公務員、私学教職員等の組合員
・70歳未満で老齢年金を受給していない方

20歳前の傷病による特例

先天性股関節脱臼や若年性関節リウマチなど、20歳前に発症した疾患により人工関節を装着した場合、初診日要件は不要となり、20歳に達した日において障害状態にあれば障害基礎年金の対象となります(国民年金法第30条の4)。

2. 保険料納付要件

初診日の前日において、以下のいずれかを満たしていることが必要です(国民年金法第30条第1項):

原則 保険料納付済期間と免除期間を合わせて加入期間の3分の2以上

特例(令和18年4月1日前の初診日の場合)
初診日において65歳未満で、初診日の前々月までの直近1年間に保険料の未納がない

3. 障害状態要件

障害認定日において、障害等級表に定める1級から3級のいずれかの状態に該当することが必要です。人工関節・人工骨頭装着の場合、原則として初診日から起算して1年6ヶ月を経過した日が障害認定日となります(国民年金法施行令第4条の6)。ただし、人工関節・人工骨頭の装着により、永続的な障害状態が確定したとみなされる場合、初診日から起算して1年6ヶ月前でも装着日が障害認定日となることもあります。

人工関節・人工骨頭における障害等級の判定基準

人工関節・人工骨頭装着の障害年金における等級判定は、装着部位、装着数、術後の機能障害の程度により総合的に評価されます(厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第8章)。

1級の判定基準

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものです:

装着による判定

人工関節または人工骨頭を装着してもなお、両上肢の機能に著しい障害を有するもの
両下肢の機能に著しい障害を有するもの
体幹の機能に座っていることができない程度の障害を有するもの

具体的状況

ベッド上での生活が主体で、車椅子への移乗に全介助が必要
両下肢の人工関節装着により、立位保持が極めて困難 歩行は全く不可能で、車椅子の自力操作も困難
食事・排泄・入浴・着替えの多くに介助が必要 階段昇降は不可能で、平地での移動も著しく制限される

評価指標

両側股関節・膝関節の人工関節装着
関節可動域:著しい制限(股関節屈曲30度以下等)
筋力:両下肢の筋力が著しく低下(MMT2以下)
ADL:バーセル・インデックス(BI)が40点以下

2級の判定基準

身体の機能に相当程度の障害を有するもので、労働が著しい制限を受ける、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものです:

装着による判定

人工関節または人工骨頭を装着してもなお、一上肢の機能に著しい障害を有するもの 一下肢の機能に著しい障害を有するもの 体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの

具体的状況

両側の人工関節装着により、歩行は杖や歩行器が必要
階段昇降は手すりが必要で、時間がかかる
長距離の歩行(500m以上)は困難で、休息が必要
立ち仕事や重労働は不可能
家事や軽作業は可能だが、時間がかかり疲労しやすい
入浴や着替えに一部介助を要することがある

評価指標

両側股関節・膝関節の人工関節装着、または一側の股関節と膝関節の装着
関節可動域:中等度の制限(股関節屈曲60度以下等)
筋力:下肢の筋力が中等度低下(MMT3程度)
ADL:バーセル・インデックス(BI)が60~80点程度
歩行速度:10m歩行に20秒以上要する

3級の判定基準(厚生年金のみ)

労働が著しい制限を受ける、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものです:

装着による判定

一上肢の3大関節のうち1関節に人工関節または人工骨頭を装着したもの
一下肢の3大関節のうち1関節に人工関節または人工骨頭を装着したもの

具体的状況

片側の人工関節装着により、長時間の立ち仕事や歩行に制限がある
階段昇降は可能だが、手すりの使用が望ましい
重いものを持つことや、しゃがむ動作が困難
長距離の歩行(1km以上)で疲労や痛みが出現
デスクワーク等の軽労働は可能だが、肉体労働は困難
日常生活は概ね自立しているが、疲労しやすい

評価指標

片側股関節・膝関節の人工関節装着
関節可動域:軽度から中等度の制限
筋力:患側の筋力が軽度低下(MMT4程度)
ADL:バーセル・インデックス(BI)が80点以上
歩行速度:10m歩行に15~20秒程度

人工関節装着特有の考慮事項

再置換手術の影響

人工関節は一般的に15~25年程度で摩耗や緩みが生じ、再置換手術が必要となることがあります。再置換手術により骨欠損が進行し、関節機能がさらに低下した場合、等級変更請求が可能です。

感染リスクの管理

人工関節感染は重篤な合併症であり、感染により再手術や抗生剤の長期投与が必要となった場合、これも評価の対象となります。

複数関節の装着

複数の関節に人工関節を装着している場合、それぞれの関節の機能障害を総合的に評価し、併合認定により等級が決定されます。たとえば両側股関節と両側膝関節の計4関節に人工関節を装着している場合、2級以上の認定を受ける可能性もでてきます。

人工関節・人工骨頭の初診日と障害認定日について

人工関節・人工骨頭装着の障害年金申請において、初診日と障害認定日の特定は極めて重要です。

初診日の考え方

原疾患による判断

人工関節・人工骨頭装着の原因となった疾患で初めて医師の診療を受けた日が初診日となります:

変形性関節症:

関節痛で初めて受診した日、または健康診断で関節の異常を指摘された日

関節リウマチ:

関節の腫脹・疼痛で初めて受診した日

大腿骨頭壊死症:

股関節痛で初めて受診した日

大腿骨頚部骨折:

骨折により受診した日

継続性の原則

同一傷病または因果関係のある傷病については、最初の医師の診療を受けた日が初診日となります。たとえば変形性股関節症で長年通院し、最終的に人工股関節置換術を受けた場合、最初に変形性股関節症で受診した日が初診日となります。

外傷による場合

交通事故や転倒等の外傷により骨折し、その後遺症として人工関節・人工骨頭装着に至った場合、外傷により最初に受診した日(多くは救急搬送日)が初診日となります。

障害認定日の特定

原則的な障害認定日

人工関節・人工骨頭装着の場合、原則として初診日から起算して1年6ヶ月を経過した日が障害認定日となります(国民年金法施行令第4条の6第1項)。

具体例

初診日:令和4年4月1日
障害認定日:令和5年10月1日(1年6ヶ月経過日)

人工関節装着日による特例

人工関節・人工骨頭を装着した日が、初診日から1年6ヶ月以内の場合でも、装着により永続的な障害状態が確定したとみなされるため、以下の考え方があります:

実務上の取り扱い

実際には、人工関節装着日を障害認定日とし、その時点での人工関節装着の状態と機能障害の程度で判定されることが一般的です。

診断書作成時期

障害認定日以降3ヶ月以内の現症を記載した診断書が必要です(国民年金法施行規則第34条)。人工関節装着後の状態が安定する時期を考慮し、適切なタイミングでの診断書作成が重要です。

申請に必要な書類と準備すべきもの

人工関節・人工骨頭装着の障害年金申請には、以下の書類が必要です(日本年金機構「障害年金ガイド」)。

必須書類

1. 年金請求書

障害基礎年金用または障害厚生年金用
初診日の年金加入状況により使い分け

2. 診断書(肢体の障害用)

障害認定日から3ヶ月以内のものまたは提出日前3ヶ月以内のもの(国民年金法施行規則第34条)

3. 受診状況等証明書

初診日を証明する書類
初診医療機関で作成

4. 病歴・就労状況等申立書

発症から現在までの詳細な経過
日常生活や就労への影響を具体的に記載

添付書類

年金手帳または基礎年金番号通知書
振込先金融機関の通帳等
戸籍謄本または住民票(請求者と生計維持関係にある配偶者・子がいる場合)

診断書作成のポイントと医師との連携

診断書は障害年金審査における最重要書類です。人工関節・人工骨頭装着の特性を適切に反映した記載が必要です。

医師に伝えるべき情報

関節機能について

医師には以下の項目について、日常生活での具体的な困難を伝えましょう:

1. 疼痛の程度:

安静時・動作時の痛みの程度、鎮痛薬の使用状況

2. 可動域制限:

どの程度関節が動くか、日常動作での制限

3. 歩行能力:

歩行可能距離、歩行補助具の使用状況

4. 階段昇降:

昇降の可否、手すりの必要性、所要時間

5. 立ち座り動作:

椅子からの立ち上がり、床からの立ち上がりの困難さ

具体的な症状の伝達

医師には日常生活での具体的な制限を伝えることが重要です:

「両側股関節の人工関節装着により、靴下を履く動作ができず、家族に手伝ってもらっている」
「階段昇降は手すりを使用し、一段ずつ両足を揃えて昇降している。1階分昇るのに5分程度かかる」
「歩行は杖を使用しているが、500m程度で疼痛と疲労が出現し、休息が必要」
「床に座る動作や、床から立ち上がる動作ができないため、椅子の生活をしている」
「重いものを持つことができず、買い物は家族に依頼している」
「立ち仕事は30分が限界で、長時間の立位保持は不可能」

診断書記載の重要ポイント

客観的評価の記載

人工関節・人工骨頭装着の障害年金では、以下の評価が重要な判断材料となります:

関節可動域(ROM)測定

股関節:屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋の各方向
膝関節:屈曲、伸展の角度
肩関節:屈曲、伸展、外転、内転の角度
正常値との比較、健側との比較

筋力評価(MMT)

各筋群の筋力を0~5の6段階で評価
股関節:腸腰筋、大臀筋、中臀筋等
膝関節:大腿四頭筋、ハムストリングス等
患側と健側の比較

歩行評価

10m歩行テスト:歩行速度の測定
6分間歩行テスト:持久力の評価
歩行補助具の使用状況(杖、歩行器、車椅子)
歩容の異常(跛行、動揺歩行等)

日常生活動作評価

バーセル・インデックス(BI):100点満点で評価
機能的自立度評価法(FIM):126点満点で評価
各項目(移動、階段昇降、入浴、更衣等)の詳細

画像所見の記載

レントゲン画像による人工関節の状態の客観的記録:

人工関節の設置位置と角度
骨セメントの使用の有無
骨と人工関節の固定状態
摩耗や緩みの有無
骨溶解や異所性骨化の有無
両側装着の場合は両側の状態

装着部位と装着数の明記

診断書には以下を明確に記載することが重要です:

装着部位:股関節、膝関節、肩関節等
装着側:両側、右側、左側
装着時期:各関節の手術実施日
人工関節の種類:全置換型、部分置換型
再置換の有無:初回手術、再置換手術

病歴・就労状況等申立書の書き方

人工関節・人工骨頭装着の病歴・就労状況等申立書は、発症から手術、現在までの経過と生活への影響を詳しく記載する重要な書類です。

記載すべき内容

発症から診断まで

初期症状の出現時期と内容(関節痛、可動域制限等)
受診のきっかけ(症状悪化、健康診断での指摘等)
確定診断に至るまでの検査経過
診断時の関節の状態(変形の程度、疼痛の程度等)

保存的治療の経過

薬物療法(鎮痛薬、抗炎症薬等)の効果と限界
理学療法やリハビリテーションの実施状況
装具療法(杖、サポーター等)の使用状況
日常生活での制限の進行

手術決定から実施まで

手術適応となった根拠(保存的治療の限界、QOLの低下等)
術前の関節機能と日常生活への影響
手術に関する説明と同意の経過
手術日と使用した人工関節の種類

術後の経過

手術直後の経過と合併症の有無
リハビリテーションの内容と期間
退院後の生活指導と制限事項
現在の関節機能と症状の状況

効果的な記載のコツ

時系列での整理

発症から現在まで時系列で整理し、重要な出来事や症状の変化を明確に記載します:

発症期(例)

「平成28年頃から両側の股関節痛を自覚。当初は長時間歩行後のみであったが、次第に日常生活動作でも疼痛が出現するようになった。平成30年にD整形外科を受診し、レントゲン検査で両側変形性股関節症(末期)と診断された」

治療期(例)

「鎮痛薬の内服と理学療法を実施したが、疼痛は軽減せず、可動域制限も進行。令和2年には靴下を履く動作や爪切りができなくなり、歩行距離も100m程度が限界となった。令和3年4月に右側人工股関節全置換術を施行。同年10月に左側人工股関節全置換術を施行」

現在(例)

「両側人工股関節置換術後、現在も外来リハビリを継続中。疼痛は軽減したが、可動域制限は残存し、股関節の屈曲は両側とも80度程度。階段昇降は手すりが必要で、長距離歩行(500m以上)では疲労と違和感が出現する。重いものを持つことは避けるよう指導されており、日常生活に制限が継続している」

日常生活への具体的影響

人工関節・人工骨頭装着後の日常生活制限を具体的に記載します:

身体活動の制限

「両側股関節の人工関節装着により、深くしゃがむ動作ができず、和式トイレの使用は不可能」
「靴下を履く動作、足の爪を切る動作ができず、家族に依頼している」
「床に座ることができず、椅子やソファでの生活。正座は全く不可能」
「階段昇降は手すりを使用し、一段ずつ両足を揃えて昇降。降りる時は特に時間がかかる」
「長時間の立位保持(30分以上)は疼痛と疲労が出現し、座位での休息が必要」

歩行・移動の制限

「歩行は杖を使用しているが、500m程度で疲労が出現し、休息が必要」
「階段の代わりにエレベーターやエスカレーターを利用しているが、設置されていない場所への外出は困難」
「不整地や坂道での歩行は転倒のリスクが高く、避けている」
「混雑した場所での移動は、人とぶつかる危険があり、不安を感じる」

就労への影響

「立ち仕事の工場勤務から、デスクワーク中心の業務に配置転換」
「通勤時の階段昇降に時間がかかるため、通勤時間を考慮し時差出勤を利用」
「重量物の運搬作業は不可能で、5kg以上のものは持てない」
「長時間の立位を要する接客業務は困難で、業務内容を変更している」
「定期的な通院のため、月1回の有給休暇の使用が必要」

家事動作の制限

「床掃除は膝をつく動作ができないため、掃除機やモップを使用」
「浴槽の掃除は前かがみ姿勢が困難で、家族に依頼」
「重い荷物を持てないため、買い物は家族に依頼するか、カートを使用」
「洗濯物を干す際、高い位置への動作は困難」

申請手続きの流れと注意点

人工関節・人工骨頭装着の障害年金申請から決定までの具体的な流れをご説明します。

Step1:事前準備期間(1-2ヶ月)

医療記録の収集

初診医療機関での受診状況等証明書取得
手術施行医療機関での診断書作成依頼
術前・術後のレントゲン画像の写しの取得

病歴・就労状況等申立書の作成

発症から現在までの詳細な経過整理
日常生活や就労への影響の具体的記載
家族からの聞き取りによる客観的情報の収集
手術前後の生活変化の記録

Step2:書類提出(即日)

提出先

国民年金:市区町村の年金担当窓口または年金事務所
厚生年金:年金事務所または共済組合

提出時の注意点

受付印のある控えを必ず受領
不備書類の有無を確認
レントゲン画像の添付確認
装着部位と装着数の記載内容確認

Step3:審査期間(3-4ヶ月)

日本年金機構または共済組合の障害年金審査医員による書面審査が実施されます。人工関節・人工骨頭装着の場合、レントゲン画像等により装着の事実が明確に確認できるため、審査期間は比較的標準的な3-4ヶ月程度となることが多いです。

Step4:結果通知

支給決定の場合

年金証書と年金決定通知書が送付
障害認定日または提出日の翌月分から支給開始
初回振込は認定から1-2ヶ月後
遡及請求の場合は過去分がまとめて振込

不支給決定の場合

不支給決定通知書が送付
不支給理由の記載あり(多くは等級非該当)
審査請求(不服申立て)の権利あり
請求期限は決定を知った日の翌日から3ヶ月以内

人工関節・人工骨頭特有の注意点

再置換手術の扱い

人工関節の再置換手術を受けた場合、初回手術の初診日が基準となります。再置換により機能障害が悪化した場合、額改定請求(等級変更請求)が可能です。

定期的な現況報告

障害年金受給決定後も、1-5年ごとに現況報告書(診断書)の提出が必要です。人工関節装着者の場合、摩耗や緩みの進行、再置換手術の実施等を継続的に報告する必要があります。

認定率を上げるための対策

人工関節・人工骨頭装着の障害年金認定率を向上させるための具体的な対策をご紹介します。

医師との効果的な連携

整形外科専門医の診断書取得

可能であれば、日本整形外科学会認定の整形外科専門医の診断書を取得することが望ましいです。特に複数の関節に人工関節を装着している場合や、合併症がある場合、専門医の診断書は医学的信頼性が高く、審査において重要視されます。

継続的な医学的管理の記録

定期的な関節機能評価と記録の蓄積が重要です:

関節可動域の経時的変化(年1-2回の測定)
筋力評価の経時的変化
レントゲン画像による人工関節の状態確認(摩耗、緩み等)
歩行能力や日常生活動作能力の変化

客観的証拠の効果的活用

画像検査の活用

人工関節・人工骨頭装着を客観的に示すために重要な画像:

レントゲン画像

術後の正面・側面像
人工関節の設置位置と角度の確認
骨と人工関節の固定状態
経時的な変化(摩耗、緩み、骨溶解)

CT・MRI検査(必要に応じて)

人工関節周囲の骨の状態
軟部組織の状態
合併症の評価

関節機能評価の活用

関節可動域(ROM)測定

各方向の可動域を角度で測定
正常値との比較、健側との比較
制限の程度の客観的記録

筋力評価(MMT)

各筋群の筋力を0~5の6段階で評価
患側と健側の比較
筋力低下の程度の客観的記録

歩行評価

10m歩行テスト:歩行速度の測定(正常は7秒以内)
6分間歩行テスト:持久力の評価
TUGテスト:立ち上がり能力の評価

日常生活動作評価の活用

バーセル・インデックス(BI):100点満点
機能的自立度評価法(FIM):126点満点
各項目の詳細な評価と記録

日常生活動作能力の記録

家族や介護者からの客観的な生活状況の記録:

日常生活での具体的な困難の記録(日記形式)
介助の必要性と頻度(どの動作にどの程度必要か)
外出や社会参加の制限状況
就労における配慮事項と業務制限の内容

書類作成の質的向上

具体性と客観性の重視

抽象的な表現を避け、具体的で客観的な記載を心がけます:

良い例

「両側股関節の人工関節装着により、股関節の屈曲は両側とも80度に制限されている。靴下を履く動作(股関節屈曲100度以上必要)は不可能で、家族に依頼している。階段昇降は手すりを使用し、一段ずつ両足を揃えて昇降しており、1階分昇るのに5分程度要する。歩行は杖を使用し、10m歩行テストで20秒要する。バーセル・インデックスは70点」

悪い例

「股関節の人工関節を入れたので日常生活が不便」

一貫性のある記載

診断書と病歴・就労状況等申立書の整合性、時系列の一致、症状の一貫性を保つことが重要です。医師の診断書と申請者の病歴・就労状況等申立書で矛盾する記載があると、審査に悪影響を与える可能性があります。特に装着部位、装着数、関節可動域の程度、日常生活動作能力については、両者で一致した内容を記載することが重要です。

専門家に依頼するメリット・デメリット

人工関節・人工骨頭装着の障害年金申請において、専門家への依頼を検討する際の判断材料をご紹介します。

専門家依頼を推奨するケース

複雑な医学的状況

複数の関節に人工関節を装着している場合
人工関節の合併症(感染、脱臼、緩み等)がある場合
再置換手術を複数回受けている場合
他の障害を併発している場合(脊椎疾患、内科疾患等)

初診日の特定が困難

複数の医療機関を受診し、初診日の特定が困難
医療機関の廃院等により記録の入手が困難
原疾患(関節リウマチ等)の発症時期が不明確な場合
外傷による骨折後、長期間経過してから人工関節装着に至った場合

過去の申請で不支給

以前の申請で不支給決定を受けた場合(片側装着で3級非該当等)
症状の程度が認定基準に近いが届かなかった場合
審査請求や再審査請求を検討している場合

専門家依頼のメリット

専門知識と豊富な経験

人工関節装着の障害年金申請に関する専門的知見
装着部位・装着数による等級判定の理解
認定されやすい診断書作成のアドバイス

手続きの負担軽減

複雑な書類作成の支援・代行 年金事務所との折衝代行
本人・家族の精神的・時間的負担の軽減

高い成功率

専門家の適切な指導により認定率向上
診断書と申立書の整合性確保
不支給の場合の審査請求サポート
将来的な等級変更請求への対応(再置換時等)

専門家依頼のデメリット

費用負担

障害年金申請の専門家依頼には以下の費用が発生します:

相談料
初回相談:無料〜1万円程度
継続相談:5千円〜1万円程度

着手金

無料〜10万円程度(事務所により大きく異なる)

成功報酬

受給決定額の10〜20%程度
初回振込額の2ヶ月分程度が相場
遡及請求の場合は過去分に対する報酬も発生

依頼先選択の重要性

専門性の確認

すべての専門家が人工関節装着の障害年金申請に精通しているわけではありません。以下の点を確認することが重要です:

人工関節装着の障害年金申請実績
複数関節装着時の併合認定に関する知識
整形外科疾患に関する医学的知識

信頼性の判断

社会保険労務士等の有資格者であること
過去の実績と成功率の開示
費用体系の明確性
相談時の対応の丁寧さ

自分で申請する場合の留意点

十分な準備期間の確保

人工関節・人工骨頭装着の障害年金申請は、十分な準備期間(2-5ヶ月程度)を確保し、制度の理解、必要書類の準備、医師との連携を丁寧に行うことが重要です。

制度の正確な理解

障害認定日の特定方法
必要書類の内容と作成方法
申請から決定までの流れ

まとめ

人工関節・人工骨頭装着による障害年金は、適切な準備と手続きにより受給可能な重要な支援制度です。

受給の可能性について

人工関節・人工骨頭装着は障害年金の明確な対象であり、1級から3級まで幅広く認定の可能性があります。重要なのは装着したという事実だけでなく、術後の関節機能、可動域制限、筋力低下、日常生活動作能力の制限の程度です。

成功のための重要ポイント

認定獲得の鍵となるのは、初診日の正確な特定、手術記録を含む詳細な医療記録の収集、レントゲン画像による客観的証明、関節可動域・筋力・歩行能力等の客観的評価、具体的で一貫性のある病歴・就労状況等申立書の記載です。特に関節可動域測定値、筋力評価(MMT)、日常生活動作評価(BI、FIM)等の客観的データを効果的に示すことが重要です。

再置換手術への対応

人工関節は経年的に摩耗や緩みが生じ、再置換手術が必要となることがあります。再置換手術により関節機能がさらに低下した場合、額改定請求により等級の見直しを請求できます。初回の障害年金認定時から、将来的な再置換の可能性を見据え、継続的に医療記録を保管することが重要です。

専門家活用の価値

複雑な医学的状況、複数関節の装着、初診日特定の困難性、過去の不支給経験がある場合には、専門家への依頼を検討することをお勧めします。費用対効果を十分に検討した上で、人工関節装着の申請実績が豊富な専門家を選択することが重要です。

人工関節・人工骨頭を装着された方やそのご家族は、一人で悩まず、まずは正しい情報収集から始めてください。装着部位と装着数、術後の関節機能、日常生活での具体的な困難を丁寧に整理し、適切な支援を受けながら申請手続きを進めることで、必要な経済的支援を受けられる可能性が十分にあります。

人工関節・人工骨頭装着は、レントゲン画像により客観的に証明できる障害であり、適切な準備により認定率も比較的高い傾向にあります。手術後の生活の質の向上と経済的安定のため、制度を有効活用していただくことを心より願っています。人工関節・人工骨頭装着という大きな手術を経験された皆様が、障害年金制度の支援により、より安心して生活できるよう、前向きに取り組まれることをお勧めいたします。

※本記事の情報は最終更新日時点のものです。最新の制度内容については、日本年金機構または年金事務所にご確認ください。

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