障害年金受給者の収入と年金額の関係|損をしない働き方シミュレーション

障害年金を受給しながら働くことを検討している方、あるいはすでに働いている方の多くが「収入が増えると年金が減るのではないか」「どの程度まで働けば最も経済的にメリットがあるのか」といった不安や疑問を抱えています。確かに、障害年金制度は複雑で、収入と年金額の関係を正確に理解することは容易ではありません。

この記事では、障害年金受給者の収入と年金額の関係について詳しく解説し、あなたの状況に合った最適な働き方を見つけるためのシミュレーションも紹介します。正確な知識を身につけて、経済的に損をしない働き方を見つけましょう。

障害年金制度の基本と収入との関係

障害年金は、病気やケガによって生活や仕事に支障をきたす状態になった方の生活を保障するための制度です。多くの方が誤解していますが、障害年金と収入の関係を理解するためには、まずは基本的な仕組みを押さえておく必要があります。

障害年金には主に「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。障害基礎年金は国民年金の被保険者が対象で、障害厚生年金は厚生年金の被保険者が対象となっています。また、それぞれ障害の程度に応じて等級が設定されており、障害基礎年金は1級と2級、障害厚生年金は1級から3級まであります。

重要なポイントとして、障害年金は基本的に「収入額」によって直接的に減額される仕組みにはなっていません。これは多くの方が勘違いしている点です。障害年金の支給額は、障害の等級や加入期間、報酬などによって決まり、現在の収入の多寡によって増減するわけではないのです。

ただし、障害の状態と就労状況は密接に関連しているため、安定して働けるようになったことで「障害の状態が改善した」と判断され、等級の見直しや受給資格の喪失につながる可能性はあります。これが「収入が増えると年金が減る」という誤解を生む一因となっています。

障害年金の種類別・等級別の収入制限

障害年金の種類や等級によって、収入との関係性には違いがあります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

障害基礎年金(1級・2級)と収入の関係

障害基礎年金(1級・2級)については、収入額による直接的な制限はありません。つまり、障害基礎年金の受給者がどれだけ収入を得ても、それだけを理由に年金額が減額されることはないのです。

例えば、障害基礎年金2級を受給している方が月に20万円の収入を得ていたとしても、その収入額自体が原因で年金が減額されることはありません。ただし、前述のように、安定した就労によって障害状態が改善したと判断された場合は、等級の見直しや支給停止につながる可能性があります。

障害厚生年金(1級・2級・3級)と収入の関係

障害厚生年金についても、基本的には収入額による直接的な減額規定はありません。しかし、注意が必要なのは「在職老齢年金制度」との関係です。

20歳から60歳までの障害厚生年金受給者の場合は、収入額にかかわらず年金額は減額されません。しかし、65歳以上で老齢厚生年金と障害基礎年金を同時に受給できる場合、一定以上の収入があると「在職老齢年金制度」により、老齢厚生年金の方が減額される可能性があります。これは障害基礎年金そのものを減額するわけではありませんが、トータルの年金受給額に影響します。

20歳前傷病による障害基礎年金と収入の関係

20歳前の傷病を原因とする障害基礎年金の場合は特別な規定があります。本人の前年の所得が一定額(2025年度は約3,704,000円)を超えると、その所得に応じて年金額が減額または支給停止となります。

ただし、この所得制限は非常に高い水準に設定されているため、多くの受給者には影響しないと考えられます。月収に換算すると約39万円以上になりますので、一般的な就労では超えることは少ないでしょう。

障害年金受給者の収入と年金額はどう変わる?

障害年金受給者の収入と年金額の関係について、具体的なケースを見ていきましょう。

ケース別シミュレーション:収入増加時の年金額変化

【ケース1】障害基礎年金2級受給者の場合

山田さん(35歳)は精神障害で障害基礎年金2級(月額約6.9万円)を受給しています。パートタイム就労を始め、月収が8万円になりました。この場合、障害基礎年金の額はどうなるでしょうか?

結果:山田さんの障害基礎年金は減額されません。月収8万円+障害基礎年金2級約6.9万円=合計約14.9万円の収入となります。

【ケース2】障害厚生年金3級受給者の場合

佐藤さん(42歳)は身体障害で障害厚生年金3級(月額約5.5万円)を受給しています。リモートワークで働き始め、月収が18万円になりました。この場合の年金額はどうなるでしょうか?

結果:佐藤さんの障害厚生年金も減額されません。月収18万円+障害厚生年金3級約5.5万円=合計約23.5万円の収入となります。

【ケース3】20歳前傷病による障害基礎年金1級受給者の場合

鈴木さん(25歳)は20歳前の傷病による障害基礎年金1級(月額約8.6万円)を受給しています。就労支援施設での工賃が月3万円ある場合、年金額はどうなるでしょうか?

結果:年間の収入は36万円となり、所得制限(約370万円)を大幅に下回るため、年金額は減額されません。月3万円+障害基礎年金1級約8.6万円=合計約11.6万円の収入となります。

年金額に影響を与える要素は何か?

繰り返しになりますが、障害年金は基本的に「収入額」そのものによって減額されるわけではありません。年金額に影響を与える主な要素は以下の通りです:

1.障害の状態変化

障害の状態が改善したと判断されると、等級の見直しや支給停止につながる可能性があります。

2.所得制限(20歳前傷病のみ)

20歳前傷病による障害基礎年金の場合のみ、高額所得(約370万円/年以上)で減額されます。

3.在職老齢年金制度との関係

65歳以上で就労している場合、障害基礎年金と老齢厚生年金の併給時に影響がある場合があります。

障害年金と収入の関係を理解するためのシミュレーション

あなた自身の状況に当てはめて考えるために、簡単なシミュレーション方法を紹介します。

自分の状況に合わせた収支シミュレーションの方法

以下の手順で、収入と年金の関係をシミュレーションしてみましょう:

  1. 現在受給している障害年金の種類と等級、金額を確認する
  2. 予定している就労形態と想定収入を算出する
  3. 税金や社会保険料の概算を計算する
  4. 収入増加に伴う各種福祉サービスへの影響を確認する
  5. トータルでの手取り額を計算する

具体的な計算例を見てみましょう。

【シミュレーション例】障害基礎年金2級受給者がパートタイム就労を始める場合

前提条件:

  • 障害基礎年金2級:月額約6.9万円
  • パートタイム就労:月収8万円(年収96万円)
  • 障害者控除:所得税・住民税の控除適用

収支シミュレーション:

  • 年金収入:約82.8万円/年(6.9万円×12ヶ月)
  • 就労収入:96万円/年
  • 総収入:約178.8万円/年
  • 税金・社会保険料:年収96万円の場合、障害者控除を適用すれば所得税はほぼかからず、住民税も軽減される
  • 手取り収入:約170万円/年程度(約14.2万円/月)

このシミュレーションでは、就労により総収入が大幅に増加し、税金や社会保険料を考慮しても経済的にメリットがあることがわかります。

収入ボーダーラインの見極め方

経済的に最も有利な収入レベルを見極めるポイントは、以下の要素を考慮することです:

1.課税最低限度額

一定の収入を超えると所得税や住民税がかかり始めます

2.社会保険加入基準

パートなどで一定の労働時間や収入を超えると社会保険に加入する必要があります

3.各種福祉サービスの利用条件

収入増加により自己負担が増えるサービスがあります

4.障害年金の等級見直しリスク

長期間の安定就労は等級見直しにつながる可能性があります

これらの要素を総合的に考慮し、自分にとって最適な収入レベルを見極めることが大切です。

収入増加に伴う他の社会保障への影響

障害年金受給者の収入が増えた場合、年金額だけでなく他の社会保障制度にも影響が出る可能性があります。

税金・社会保険料への影響

収入が増えると、以下のような影響が考えられます:

1.所得税・住民税

一定の収入を超えると課税対象となります。ただし、障害者控除(所得税で27万円、住民税で26万円)が適用されるため、一般の方より税負担は軽減されます。

2.社会保険料

パートタイム就労でも、一定の条件(週20時間以上勤務かつ月収8.8万円以上など)を満たすと社会保険に加入する必要があり、保険料負担が発生します。

3.国民健康保険・後期高齢者医療制度

収入に応じて保険料が計算されるため、収入増加に伴い保険料も増加します。

各種福祉サービスへの影響

収入増加により、以下のような福祉サービスにも影響が出る場合があります:

1.自立支援医療

世帯の収入に応じて自己負担上限額が設定されるため、収入増加により負担が増える可能性があります。

2.障害福祉サービス

収入に応じて利用料が変わるサービスもあります。特に施設入所者は、収入に応じて食費や光熱水費などの負担が変わることがあります。

3.各種手当

特別障害者手当などは、本人や配偶者の所得によって支給停止となる場合があります。

4.生活保護

障害年金と就労収入の合計が生活保護基準を上回ると、生活保護が減額または停止されます。

これらの影響を総合的に考慮して、自分にとって最適な収入レベルを検討することが重要です。

障害年金受給者が経済的に損しない働き方の選択肢

障害年金を受給しながら経済的に損をしない働き方について、いくつかの選択肢を紹介します。

短時間勤務とフルタイムのメリット・デメリット比較

短時間勤務(週20時間未満)のメリット:

  • 社会保険料負担がない場合が多い
  • 体力的・精神的な負担が少ない
  • 障害状態の維持がしやすく、年金継続リスクが低い

短時間勤務のデメリット:

  • 収入が限られる
  • キャリア形成が難しい場合がある
  • 社会保険に加入できないことによる将来的なデメリット

フルタイム勤務のメリット:

  • 収入が多い
  • キャリア形成の可能性が広がる
  • 厚生年金加入による将来の年金額アップ

フルタイム勤務のデメリット:

  • 体力的・精神的な負担が大きい
  • 障害状態の改善と判断されるリスクが高い
  • 社会保険料などの負担が増える

障害者雇用枠と一般雇用枠の違い

障害者雇用枠で働く場合、以下のようなメリットがあります:

1.合理的配慮

障害特性に応じた業務調整や環境整備が受けられる

2.障害状態との整合性

障害者として雇用されていることが、障害年金の受給資格と矛盾しにくい

3.安定性

法定雇用率の対象となるため、雇用が比較的安定している場合が多い

一方、一般雇用枠で働く場合は、より幅広い職種や職場を選べる可能性がありますが、障害への配慮が少ない場合もあります。また、長期間安定して働くことで、障害状態が改善したと判断されるリスクが高まる可能性もあります。

就労系障害福祉サービスの活用方法

就労系障害福祉サービスを活用することも、障害年金との両立を図る選択肢の一つです:

1.就労移行支援

一般企業への就職を目指す訓練を受けられます。期間は原則2年以内で、その間は障害年金への影響は少ないと考えられます。

2.就労継続支援A型・B型

A型は雇用契約を結び、B型は雇用契約なしで働く場所を提供するサービスです。いずれも福祉的就労として、一般就労よりも障害年金への影響は少ない傾向があります。

3.就労定着支援

一般就労後の職場定着を支援するサービスです。これを利用することで、職場での困りごとに対応しやすくなります。

これらのサービスを上手に活用することで、自分の障害特性に合った働き方を見つけやすくなります。

よくある疑問と回答

障害年金受給者の収入と年金額の関係について、よくある疑問に答えます。

  • 障害年金を受給しながら働くと、必ず年金が減りますか?

    いいえ、基本的に障害年金は収入額によって直接減額されるわけではありません。ただし、20歳前傷病による障害基礎年金の場合は高額所得(年間約370.4万円超)で減額されます。また、安定した就労により障害状態が改善したと判断されると、等級の見直しや支給停止につながる可能性はあります。

  • どのくらいの収入なら、年金に影響しませんか?

    一般的な障害年金(20歳前傷病以外)では、収入額自体による直接的な減額はありません。ただし、就労の安定性や継続性が障害状態の判断材料となるため、フルタイムで長期間働いている場合は、等級の見直しリスクが高まる傾向があります。週20時間未満の短時間勤務なら、比較的リスクは低いと言えるでしょう。

  • 収入が増えると他の福祉サービスにどんな影響がありますか?

    収入増加により、自立支援医療や障害福祉サービスの自己負担額が増える可能性があります。また、特別障害者手当などの所得制限に該当する場合や生活保護を受給している場合は、その給付が減額・停止される可能性があります。具体的な影響は個人の状況によって異なるため、専門家に相談することをお勧めします。

  • 年金が減額されそうになったらどうすればいいですか?

    年金の減額や停止の可能性が出てきた場合は、以下の対応を検討しましょう:

    1.社会保険労務士などの専門家に相談する
    2.障害状態を正確に表す診断書の作成を医師に依頼する
    3.必要に応じて障害年金の不服申立てを行う
    4.就労形態や労働時間の見直しを検討する 早めの対応が重要です。

まとめ:障害年金と収入の両立で豊かな生活を

障害年金受給者の収入と年金額の関係

重要なポイントをまとめます:

1.障害年金は基本的に収入額によって直接減額されない

多くの場合、収入がいくらであっても年金額は変わりません(20歳前傷病の高額所得者を除く)。

2.収入よりも就労状況が重要

収入額よりも就労の安定性や継続性が障害状態の判断材料となり、等級に影響します。

3.総合的な収支を考慮する

年金額だけでなく、税金や社会保険料、各種福祉サービスへの影響も含めて総合的に考えましょう。

4.自分に合った働き方を選ぶ

短時間勤務、障害者雇用、就労系障害福祉サービスなど自分の障害特性に合った働き方を選びましょう。

5.定期的な見直しを行う

自分の状況や制度の変更に合わせて、定期的に収支シミュレーションを見直しましょう。

障害年金と就労収入をうまく組み合わせることで、経済的な安定と社会参加、自己実現を両立させることができます。
不安や疑問がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。あなたの状況に合った最適な選択をサポートしてもらえるでしょう。