この記事は、障害年金を受給していたご家族が亡くなられた遺族の方へ、必要な手続きを時系列でわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 死亡後すぐに行うべき手続き(14日以内)
- 未支給年金を受け取れる人と請求方法
- 遺族年金の受給要件と金額の目安
- よくある質問と落とし穴
- 困った時の相談窓口
所要時間の目安: 初期手続きは1〜2週間、未支給年金の受取まで約2〜3ヶ月
【重要】まず最初に確認すべきこと
大切な方を亡くされた悲しみの中、複雑な手続きに向き合うことは本当に大変です。しかし、適切な手続きを行わないと受け取れるはずの給付が受け取れなくなる可能性があります。
この記事は、「何から手をつければよいのか」という不安を解消し、一歩ずつ確実に進められるようサポートします。
手続き全体の流れ(タイムライン)
【時期:死亡後すぐ】
- やるべきこと:死亡届の提出
- 期限:14日以内
【時期:死亡後1〜2週間】
- やるべきこと:年金受給権者死亡届の提出
- 期限:10日〜14日以内
【時期:死亡後1ヶ月以内】
- やるべきこと:未支給年金の請求
- 期限:できるだけ早く
【時期:死亡後2ヶ月以内】
- やるべきこと:遺族年金の請求
- 期限:必要な場合
※マイナンバーが日本年金機構に登録されている場合、一部手続きが自動化されます
ステップ1:死亡届の提出(死亡後14日以内)
どこに提出するか
提出先: 故人の住所地または死亡地の市区町村役場
必要なもの
- 死亡診断書または死体検案書(医師が発行)
- 届出人の印鑑(認印可)
- 届出人の本人確認書類(運転免許証など)
ポイント
マイナンバーが日本年金機構に登録されている場合、この死亡届の情報が自動連携されるため、年金事務所への「年金受給権者死亡届」は原則不要になります。ただし、念のため年金事務所に確認することをお勧めします。
ステップ2:年金受給権者死亡届の提出
いつまでに提出するか
- 国民年金: 死亡後14日以内
- 厚生年金: 死亡後10日以内
どこに提出するか
最寄りの年金事務所または街角の年金相談センター
なぜ重要なのか
この届出を怠ると、死亡後も年金が振り込まれ続け、後日返還請求されることがあります。年金は死亡月分まで支給されるため、早めの届出が過払いを防ぎます。
たとえるなら: 携帯電話の解約と同じで、連絡しないと料金が発生し続けるイメージです。
必要な書類
- 年金受給権者死亡届(年金事務所または日本年金機構のウェブサイトからダウンロードで入手可能)
- 故人の年金証書または基礎年金番号通知書
- 死亡を証明する書類(死亡診断書のコピーなど)
ステップ3:未支給年金の請求(最重要)
未支給年金とは?
年金は死亡月分まで受け取る権利があります。しかし、年金は後払いのため、受け取れずに残っている分を「未支給年金」といいます。
具体例: 3月15日に亡くなった場合
- 2月分・3月分の年金(通常4月15日振込予定)→ 未支給年金として請求可能
- 平均的な障害基礎年金2級の場合、約13万円(2ヶ月分)
誰が請求できるのか?
請求できるのは、故人と生計を同じくしていた遺族で、優先順位があります:
- 配偶者(内縁関係も含む)
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- その他の三親等内の親族(甥・姪など)
「生計を同じくしていた」とは?
必ずしも同居は必要ありません。以下のような場合も該当します:
- 別居していても定期的に生活費を送金していた
- 学生の子どもに仕送りしていた
- 介護施設に入所していたが、費用を負担していた
比喩的に説明: 家計が「一つの財布」で管理されていたかどうかが基準です。
必要な書類(チェックリスト)
- 未支給年金・保険給付請求書(年金事務所または日本年金機構のウェブサイトからダウンロードで入手可能)
- 故人の年金証書
- 戸籍謄本(故人と請求者の続柄がわかるもの)
- 住民票(請求者の世帯全員分、マイナンバー記載あり)
- 請求者名義の預金通帳のコピー
- 請求者の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 生計同一関係に関する申立書(別居の場合)
請求期限と注意点
時効: 5年間(ただし、できるだけ早めに請求することを強く推奨)
よくある失敗: 「相続の手続きが終わってから」と先延ばしにして、時効が迫ってしまうケース。未支給年金は相続財産とは別なので、先に請求できます。
ステップ4:遺族年金の検討・請求
障害年金を受給していた方が亡くなった場合、条件を満たせば遺族年金を受給できる可能性があります。
遺族基礎年金
受給できる遺族
- 18歳到達年度末までの子を養育している配偶者
- 18歳到達年度末までの子(配偶者がいない場合)
- 20歳未満で障害等級1級・2級の子
年金額の目安(2025年度)
- 基本額:831,700円(年額)
- 子の加算:
第1子・第2子:各239,300円
第3子以降:各79,800円
具体例: 配偶者と子ども2人の場合
→ 831,700円 + 239,300円 × 2 = 約131万円/年(月額約10.9万円)
遺族厚生年金
受給できる遺族(優先順位)
- 配偶者または子
- 父母
- 孫
- 祖父母
※配偶者は年齢制限なし(ただし、子のない30歳未満の妻は5年間の有期給付)
年金額の計算方法
故人の厚生年金加入期間や平均標準報酬額により異なりますが、おおむね故人の厚生年金額の3/4程度が目安です。
障害年金との併給調整
- 遺族基礎年金と遺族厚生年金は併給可能
- 自身の障害年金と遺族年金は選択制(有利な方を選択)
ステップ5:特別なケース別の対応
ケース1:障害年金の請求中に亡くなった場合
「障害認定日請求」の場合
→ 遺族が手続きを引き継ぎ可能です。認定されれば、未支給年金として受け取れます。
「事後重症請求」の場合
→ 死亡後は手続き不可となります。請求は生前中に行う必要があります。
重要: 重い病気の方で障害年金を検討している場合は、できるだけ早めに請求手続きを開始することが大切です。
ケース2:海外在住の遺族の場合
海外在住でも未支給年金の請求は可能ですが、以下の点に注意が必要です:
- 書類は在外公館での認証が必要な場合がある
- 送金には時間がかかる(2〜4ヶ月程度)
- 国によって必要書類が異なる
対応: まず日本年金機構または在外公館に連絡し、必要書類を確認してください。
ケース3:内縁関係の場合
法律上の配偶者でなくても、事実婚(内縁関係)の場合、以下の条件で遺族年金や未支給年金を受け取れます:
- 事実上の婚姻関係にあったことの証明
- 生計を同一にしていた証明
必要な追加書類:
- 内縁関係に関する申立書
- 第三者の証明書(近隣住民、親族など)
- 同居を証明する住民票
よくある質問(FAQ)
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年金が振り込まれた後に死亡が判明した場合、返さなければいけませんか?
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死亡月分までは受給権があるため、その月分までは返還不要です。ただし、死亡月の翌月以降に振り込まれた分は返還が必要です。
返還方法は年金事務所から案内がありますが、通常は口座引き落としまたは振込で対応します。
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未支給年金は相続税の対象になりますか?
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未支給年金は相続財産ではなく、受給者固有の権利とされています。ただし、一時所得として所得税の対象になる可能性があります(金額によっては非課税)。
詳しくは税理士または税務署にご相談ください。
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複数の遺族がいる場合、誰が受け取れますか?
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優先順位の最も高い方が受け取ります。同順位の方が複数いる場合は、代表者1名が受け取り、後で分配することになります。
分配方法は当事者間で決めますが、トラブルを避けるため、事前に話し合うことをお勧めします。
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手続きを忘れていて時効が近い場合はどうすればいいですか?
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まずはすぐに年金事務所に相談してください。特別な事情がある場合、救済措置が取られることもあります。
時効の起算日や中断事由など、専門的な判断が必要なため、社会保険労務士への相談も有効です。
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手続きを社会保険労務士に依頼できますか?費用はどのくらいですか?
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可能です。特に以下のケースでは専門家への依頼を検討する価値があります:
・遺族年金の受給要件が複雑な場合
・書類の準備が困難な場合
・時効が迫っている場合
費用の目安: 3万円〜10万円程度(業務内容により異なる)
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障害年金を受給していた本人が働いていた場合でも遺族年金は受け取れますか?
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はい、受け取れます。障害年金受給者であっても、厚生年金に加入して働いていた場合、その加入期間に応じて遺族厚生年金が支給されます。
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離婚した元配偶者との間の子どもは遺族年金を受け取れますか?
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はい、故人と生計を同じくしていた18歳未満の子であれば、離婚した元配偶者との子どもでも遺族基礎年金を受け取れます。
養育費を受け取っていた、定期的に面会していたなど、生計維持関係があったことを証明する必要があります。
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遺族年金を受給中に再婚した場合はどうなりますか?
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配偶者として遺族年金を受給している場合、再婚すると受給権が消滅します。再婚が決まったら、すぐに年金事務所に届け出る必要があります。
ただし、子どもが受給している遺族年金は、親が再婚しても影響を受けません。
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未支給年金と遺族年金は両方もらえますか?
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はい、別々の制度なので両方受け取ることができます。未支給年金は故人が受け取るはずだった年金であり、遺族年金は遺族自身の年金だからです。
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手続きが複雑でよくわかりません。どこに相談すればいいですか?
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まずは最寄りの年金事務所に予約を入れて相談してください。持参するものは以下の通りです:
・故人の年金証書(あれば)
・ご自身の本人確認書類
・戸籍謄本(あれば)
年金事務所では、あなたのケースに合わせて必要な手続きを教えてくれます。
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相談窓口一覧
困ったときは、一人で悩まず専門機関に相談しましょう。
年金事務所
- 対応内容: 全般的な年金手続き
- 予約: ねんきんダイヤル(0570-05-1165)
- 持参するもの: 年金証書、本人確認書類、マイナンバーカード
街角の年金相談センター
- 対応内容: 一般的な相談・手続きサポート
- 予約: 不要(ただし混雑時は待ち時間あり)
- メリット: 年金事務所より待ち時間が短いことが多い
市区町村の国民年金窓口
- 対応内容: 国民年金(遺族基礎年金)に関する相談
- メリット: 死亡届と同時に相談可能
社会保険労務士
- 対応内容: 複雑なケースの手続き代行、書類作成支援
- 探し方: 各都道府県の社会保険労務士会
弁護士・司法書士
- 対応内容: 相続全般の相談(相続放棄、遺産分割など)
- タイミング: 相続財産が複雑な場合、遺族間でトラブルがある場合
手続き後の注意点とアドバイス
1. 支給決定通知書と振込額の確認
未支給年金や遺族年金が支給されたら、年金決定通知書の内容と実際の振込額を必ず照合してください。
万が一相違がある場合: すぐに年金事務所に連絡し、確認を依頼しましょう。
2. 書類の保管(最低5年間)
以下の書類はコピーを含めて大切に保管してください:
- 年金受給権者死亡届の控え
- 未支給年金請求書の控え
- 遺族年金請求書の控え
- 年金決定通知書
- 振込通知書
保管期間: 最低5年間(税務上の証拠書類として必要な場合があるため)
3. 定期的な現況届の提出(遺族年金受給者)
遺族年金を受給する場合、毎年「現況届」の提出が必要です(マイナンバー登録者は一部省略可能)。提出を忘れると年金が停止されるため、注意してください。
4. 生活状況の変化があった場合
以下のような変化があった場合、年金事務所への届出が必要です:
- 遺族年金を受け取っている方が再婚した
- 子が18歳に達した
- 子が障害等級に該当しなくなった
- 受給者本人が亡くなった
チェックリスト:手続き漏れ防止用
以下のチェックリストを印刷し、手続きの進捗管理にご活用ください。
- 死亡届の提出(14日以内)
- 年金証書の所在確認
- 年金受給権者死亡届の提出(10〜14日以内)
- 未支給年金請求書の準備
- 必要書類の収集(戸籍謄本、住民票など)
- 未支給年金の請求
- 遺族年金の受給要件の確認
- 遺族年金の請求(該当する場合)
- 支給決定通知書の受領と内容確認
- 書類のコピー作成と保管
- 銀行口座への振込確認
- 相続手続きとの調整(必要に応じて)
まとめ:遺族が安心して進められるための7つのポイント
障害年金受給者が亡くなった場合でも、手続きは確実に進めることが重要です:
順序
【ポイント1】死亡後14日以内:
死亡届を市区町村に提出
【ポイント2】死亡後10〜14日以内:
年金受給権者死亡届を年金事務所に提出(マイナンバー登録者は自動連携の場合あり)
【ポイント3】できるだけ早く:
未支給年金を請求(時効5年)
【ポイント4】該当する場合:
遺族年金の請求を検討
【ポイント5】特殊なケース:
請求中死亡、海外在住、内縁関係などは個別に確認
【ポイント6】不明点がある場合:
年金事務所または社会保険労務士に早めに相談
【ポイント7】手続き後:
書類を5年間保管し、振込額を確認
最後に
大切な方を失った悲しみの中、複雑な手続きに向き合うことは本当に大変なことです。しかし、受け取れるはずの給付を確実に受け取ることが、故人の意志を尊重することにもつながります。
手続きは決して簡単ではありませんが、この記事を参考にしながら一つずつ確実に進めていきましょう。一人で抱え込まず、家族や専門家のサポートを受けながら進めることが何より大切です。