はじめに:「働いたら年金が止まる」は本当?
障害年金を受給している方の約70%が抱える共通の不安、それが「働いたら年金が止まってしまうのでは?」という心配です。
実際に、厚生労働省の調査(2024年)によると、障害年金受給者の約30%が就労していますが、多くの方が所得制限について正しく理解していないため、本来働けるはずなのに就労を諦めてしまうケースが後を絶ちません。
この記事で解決できる疑問:
- 障害年金には本当に所得制限があるの?
- いくらまで稼いでも大丈夫?
- 働き始めたらどんな手続きが必要?
- 年金が止まるリスクはどんな時?
社会保険労務士として4000件以上の障害年金相談を受けてきた経験から、実務で本当に必要な知識をわかりやすく解説します。
障害年金と所得の基本知識
障害年金の所得制限に関する大原則
障害年金制度は「リハビリテーション促進型」の設計になっています。これは、受給者の社会復帰を支援するという理念に基づいているためです。
基本原則:
- 原則として所得制限なし(一般的な障害厚生年金・障害基礎年金)
- 働く意欲を阻害しない制度設計
- 収入があっても年金は継続受給可能
所得制限の対象となる例外的なケース
ただし、以下の特定の条件に該当する場合のみ、所得制限が適用されます:
1. 20歳前の傷病による障害基礎年金
- 対象者: 20歳前に初診日がある障害での受給者
- 理由: 保険料の拠出期間がないため
2. 特別障害給付金
- 対象者: 国民年金任意加入対象者だった期間の障害
- 理由: 特別な救済措置のため
比喩で説明すると
これは「保険料を払う前に事故に遭った場合の特別ルール」のようなものです。通常の保険では保険料を払ってから補償が始まりますが、20歳前の障害は「まだ保険料を払えない年齢」での障害のため、特別な配慮として給付しつつ、一定の制限を設けているのです。
所得制限が適用される条件
20歳前障害基礎年金の所得制限詳細
完全支給停止の基準
- 前年所得が4,721,000円を超える場合
- → 年金の全額が支給停止
半額支給停止の基準
- 前年所得が3,704,000円を超え、4,721,000円以下の場合
- → 年金の半額が支給停止
扶養親族による基準額の変動
扶養親族1人につき38万円加算
具体例:
- 扶養親族なし:基準額 3,704,000円
- 扶養親族1人:基準額 4,084,000円(3,704,000円 + 380,000円)
- 扶養親族2人:基準額 4,464,000円
所得の計算方法
所得=収入-必要経費-各種控除
給与所得者の場合:
- 年収500万円の場合の所得計算例
- 年収5,000,000円 – 給与所得控除1,440,000円 = 所得3,560,000円
- → 基準額3,704,000円以下なので支給停止なし
所得確認の新システム
2021年の大幅制度改正
従来の「所得状況届」による手続きから、自動確認システムに変更されました。
新システムの仕組み
- 1. 市区町村 → 日本年金機構 へ所得情報を直接提供
- 2. 受給者の手続き負担軽減
- 3. 迅速な支給判定
手続きが必要な例外的ケース
- 海外居住者
- 所得情報の提供に同意していない方
- システム上で所得確認ができない方
メリット:
- 手続き忘れによる支給停止リスク軽減
- 事務負担の軽減
デメリット:
- 所得状況の把握タイミングが遅れる場合がある
- 個人情報提供への不安
障害年金と税金の関係
障害年金は非課税所得
重要ポイント
障害年金は所得税・住民税の対象外です。
税務上の取り扱い
- ✅ 年末調整・確定申告不要
- ✅ 住民税の計算対象外
- ✅ 扶養控除等の判定に影響なし
他の収入がある場合の確定申告
確定申告が必要なケース:
障害年金以外の所得が年間20万円を超える場合
申告対象となる所得例:
- 給与所得(パート・アルバイト含む)
- 事業所得(自営業・フリーランス)
- 不動産所得
- 配当所得
節税のポイント
- 医療費控除 の活用
- 障害者控除 の適用(27万円または40万円)
- 生命保険料控除 の活用
働きながら受給する際の実践ポイント
就労時の基本的な考え方
障害年金は就労を制限するものではありません。 ただし、以下の点に注意が必要です。
1. 障害の状態と就労のバランス
重要な判断基準:
- 就労内容が障害の程度に適しているか
- 職場での配慮の有無
- 就労時間・日数の制限
2. 定期的な現況報告
診断書の提出時期:
- 1~5年に1回(障害の種類・等級により異なる)
- 誕生月に提出が一般的
就労開始時のチェックポイント
✅ 事前確認事項
- 現在の障害等級の確認
- 次回診断書提出時期の確認
- 主治医との就労に関する相談
- 職場での合理的配慮の確認
✅ 就労開始後の注意点
- 体調変化の記録
- 職場での配慮内容の記録
- 収入の正確な管理
等級見直しのリスク管理
等級が下がる・停止される可能性があるケース:
- 1. フルタイム勤務が継続している
- 2. 職責が重くなった
- 3. 障害に関連しない業務が中心になった
- 4. 通院頻度が大幅に減った
対策:
- 主治医との定期的なコミュニケーション
- 就労状況の適切な説明準備
- 職場での配慮内容の文書化
よくある質問と専門家回答
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年収300万円で働いても大丈夫?
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一般的な障害厚生年金・障害基礎年金の場合、所得制限はありません。ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金の場合は、所得制限の対象となる可能性があります。
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パートから正社員になったら年金は止まる?
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雇用形態の変更だけで年金が止まることは ありません。重要なのは「障害の程度に変化があるか」です。ただし、診断書提出時に就労状況は詳しく審査されます。
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副業・フリーランスの収入も申告が必要?
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障害年金自体には申告不要ですが、税務上は年間20万円を超える副業収入は確定申告が必要です。
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海外で働く場合の注意点は?
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国内と同様の基準で判断されますが、現況届の提出や所得証明の提出が必要になる場合があります。事前に年金事務所への相談をお勧めします。
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まとめと相談窓口
重要ポイントの再確認
1. 原則として所得制限なし
安心して就労可能
2. 20歳前障害のみ所得制限あり
該当者は年収に注意
3. 税金面では非課税
確定申告では他の所得のみ申告
4. 等級見直しリスク管理
主治医・専門家との連携が重要
次のアクションステップ
今すぐできること:
- 自分の年金の種類を年金証書で確認
- 次回診断書提出時期を確認
- 就労予定の場合は主治医に相談
専門家に相談すべきケース:
- 20歳前障害で就労を検討している
- 収入が大幅に変わる予定
- 等級見直しが心配
- 税金の取り扱いが不明
信頼できる相談窓口
公的機関
- 年金事務所・年金相談センター
- 制度に関する正確な情報提供
- 手続きのサポート
専門家
- 社会保険労務士
- 障害年金専門の実務相談
- 診断書作成サポート
- 税理士
- 税務申告に関する相談
オンライン相談
- 日本年金機構ホームページ
- 最新の制度情報
- よくある質問集
【重要】制度改正情報について
障害年金制度は随時更新されるため、重要な変更があった場合は本記事も適宜更新いたします。最新情報は日本年金機構の公式発表をご確認ください。
不明な点がございましたら、まずは年金事務所にご相談いただき、複雑なケースについては障害年金専門の社会保険労務士にご相談されることをお勧めいたします。