障害年金を受給している方の中で、症状が悪化した場合には「額改定請求」という手続きを行うことで、年金額の増額を請求することができます。
この制度は、障害の状態に応じて適切な支援を受けられるようにするための重要な仕組みです。
本記事では、額改定請求の詳細な条件や具体的な手続きの方法について解説していきます。
額改定請求制度の概要
額改定請求は、障害の程度が悪化した場合に、年金の等級を見直し、支給額の増額を求める手続きです。
障害基礎年金では1級と2級の二段階、障害厚生年金では1級から3級までの三段階の等級があり、症状の悪化により上位の等級に該当すると判断された場合、年金額が増額されます。
この制度は、障害の状態が時間とともに変化する可能性を考慮して設けられています。たとえば、進行性の疾患により症状が徐々に悪化する場合や、合併症の発症により障害の程度が重くなった場合などに、この制度を利用することができます。
申請が可能な条件と時期
額改定請求を行うためには、いくつかの条件を満たす必要があります。基本的には、年金受給権が発生した日から1年が経過していること、または前回の障害の診査を受けた日から1年が経過していることが条件となります。
これは、障害の状態を適切に評価するために必要な期間として設定されています。
ただし、障害の程度が明らかに増進した場合には、この1年という期間を待たずに請求を行うことができます。
たとえば、急性の疾患により症状が急激に悪化した場合や、事故などにより新たな障害が加わった場合などが、これに該当します。
また、一度支給停止となった年金を復活させる場合にも、1年という期間を待つ必要はありません。
この場合は「支給停止事由消滅届」という書類を提出することで、速やかに手続きを進めることができます。
65歳以上の方については、特別な制限が設けられています。障害厚生年金3級を受給している方で、過去に2級以上の等級を受けたことがない場合は、65歳以降の額改定請求はできません。ただし、過去に同一の支給事由で障害基礎年金の受給権があった場合は、この制限の例外として請求が可能です。
必要書類の準備と記入のポイント
額改定請求を行う際には、複数の書類を準備する必要があります。最も重要なのは「障害給付額改定請求書」と医師の診断書です。診断書は請求日前3か月以内に作成されたものである必要があり、現在の障害の状態が詳細に記載されていなければなりません。
医師の診断書は、症状の悪化を客観的に示す重要な証拠となります。そのため、日頃から通院時に症状の変化を詳しく医師に伝え、診療録に記録してもらうことが大切です。また、可能であれば前回の診断書を作成した医師に新しい診断書の作成を依頼することで、症状の変化をより明確に示すことができます。
年金証書の写しも必要書類の一つです。年金証書には基礎年金番号や支給開始日などの重要な情報が記載されているため、手続きの際に参照されます。また、氏名変更があった場合には戸籍抄本、加給年金額の対象者がいる場合には生計維持証明書など、状況に応じて追加の書類が必要となることもあります。
特定の疾患では、レントゲンフィルムや検査結果などの医療資料の提出を求められることもあります。これらの資料は、障害の状態をより具体的に示す補助的な証拠として使用されます。
申請から認定までのプロセス
額改定請求の手続きは、まず主治医への相談から始まります。症状の悪化を感じた場合は、早めに主治医に相談し、額改定請求のための診断書作成が可能かどうかを確認します。医師が症状の悪化を認めた場合は、必要な検査を行い、詳細な診断書を作成してもらいます。
すべての必要書類が揃ったら、年金事務所または街角の年金相談センターに提出します。書類は窓口への直接提出のほか、郵送での提出も可能です。不明な点がある場合は、事前に年金事務所に確認することをお勧めします。
提出された書類は、日本年金機構で審査されます。審査には通常約3か月程度かかりますが、この間も現在の年金は継続して支給されます。審査では、提出された診断書をもとに、障害の程度が上位等級に該当するかどうかが判断されます。
審査結果と支給開始
審査の結果、認定された場合は、新しい年金証書と支給額変更通知が送付されます。新しい年金額は、請求した月の翌月分から支給されます。増額となった差額分については、後日一括して支払われます。
一方、症状の悪化が認められず、不認定となった場合は、不支給決定通知書が送付されます。
この場合、現在の年金額での支給が継続されます。審査結果に不服がある場合は、結果通知を受け取ってから3か月以内に審査請求を行うことができます。
日常的な対応と注意点
額改定請求をスムーズに行うためには、日頃からの準備も重要です。定期的な通院を欠かさず、症状の変化を記録しておくことで、額改定請求が必要になった際の判断材料となります。また、服薬状況や日常生活での困難な点なども記録しておくと、医師への説明がより具体的になります。
特に進行性の疾患がある場合は、症状の変化に注意を払い、悪化が見られた際には早めに医師に相談することが大切です。また、複数の疾患がある場合は、それぞれの主治医と相談しながら、総合的な障害の状態を評価してもらうことも重要です。
65歳に近づいている方は、年齢による制限に注意が必要です。特に障害厚生年金3級を受給している方は、過去の等級履歴を確認し、必要に応じて65歳になる前に額改定請求を検討する必要があります。
まとめ
額改定請求は、障害の状態に応じて適切な年金額を受給するための重要な制度です。症状の悪化を感じた場合は、早めに医師に相談し、必要な手続きを進めることが大切です。手続きには一定の期間と書類の準備が必要となりますが、丁寧に対応することで、状態に応じた適切な支援を受けることができます。
また、不明な点がある場合は、年金事務所や社会保険労務士に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、より確実な手続きが可能となります。
日頃から症状の変化に注意を払い、必要に応じて適切なタイミングで額改定請求を行うことが、安定した生活を送るための重要なポイントとなります。