知的障害で障害年金は受給できる?申請条件と手続きの完全ガイド

知的障害により日常生活や就労に困難を抱えている方やそのご家族にとって、障害年金は重要な経済的支援制度です。しかし「知的障害でも障害年金はもらえるのか」「軽度知的障害でも対象になるのか」「手続きが複雑で何から始めればいいかわからない」といった不安や疑問を抱える方も多いのが現状です。

この記事では、知的障害による障害年金について、受給の可能性から具体的な申請方法、認定のポイントまで、専門家の視点から詳しく解説します。読み終える頃には、障害年金申請への明確な道筋が見えてくるはずです。

知的障害でも障害年金は受給できるのか?

結論から申し上げると、知的障害でも障害年金の受給は可能です。国民年金法施行令別表および厚生年金保険法施行令別表第1により、知的障害(精神遅滞)は「精神の障害」として障害年金の対象疾患に明確に含まれています。

厚生労働省「令和6年度 障害年金の支給状況」によると、知的障害による障害年金受給者数は安定的に推移しており、適切な申請により多くの方が受給されています。知的障害の場合、他の精神障害と比較して症状が客観的に把握しやすく、認定率も比較的高い傾向にあります。

重要なのは、知的障害の程度が日常生活や社会適応にどの程度の制限をもたらしているかという点です。知的障害は重度から軽度まで幅広く、IQ値だけでなく、適応行動の制限の程度が重視されます。軽度知的障害であっても、日常生活や就労に著しい制限がある場合は、障害年金の対象となる可能性があります。

また、知的障害の多くは20歳前から存在する先天性の障害であることから、「20歳前傷病による障害年金」の対象となることが多く、保険料の納付状況に関係なく受給できる場合があります。

知的障害の障害年金受給条件とは

知的障害で障害年金を受給するためには、以下の条件を満たす必要があります。知的障害の場合、他の疾患とは異なる特例があります。

20歳前傷病による障害年金の場合

知的障害の多くは生来的な障害であり、20歳前傷病による障害年金(障害基礎年金)の対象となります(国民年金法第30条の4):

条件

  • 20歳前に初診日がある
  • 20歳に達したとき、または20歳に達した後に障害状態に該当した場合

特徴

  • 保険料納付要件が不要
  • 所得制限が適用される場合がある
  • 障害基礎年金のみが対象(1級・2級のみ)

20歳以降に初診日がある場合

成人期に事故や疾病により知的障害に至った場合は、一般的な障害年金の要件が適用されます(国民年金法第30条、厚生年金保険法第47条):

1. 初診日要件

初診日に年金制度に加入していること

2. 保険料納付要件

保険料納付済期間と免除期間を合わせて3分の2以上、または直近1年間に未納がないこと

3. 障害状態要件

障害認定日において1級から3級のいずれかに該当すること

障害認定日の特例

知的障害の場合、20歳前から障害状態にある場合は20歳に達した日が障害認定日となります。出生時から明らかに知的障害がある場合も20歳に達した日が障害認定日となります。

知的障害における障害等級の判定基準

知的障害の障害年金における等級判定は、知能指数(IQ)と適応行動の制限の程度を総合的に評価して行われます(厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」)。

1級の判定基準

日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度の状態です:

知的機能・適応行動

  • IQおおむね35以下(重度・最重度精神遅滞に相当)
  • 身辺日常生活動作について全面的な援助が必要
  • 意思疎通が困難で、危険を避けることができない
  • 常時介護を要する状態

具体的状況

  • 食事、更衣、入浴、排泄等に全面的な介助が必要
  • 外出時には常時付き添いが必要
  • 金銭管理は全くできない

2級の判定基準

日常生活が著しい制限を受ける、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の状態です:

知的機能・適応行動

  • IQおおむね36~60(軽度・中等度精神遅滞に相当)
  • 身辺日常生活動作について部分的な援助が必要
  • 単純な社会生活は可能だが、指導援助が必要
  • 意思疎通は部分的に可能

具体的状況

  • 日常生活動作は部分的に可能だが、見守りや指導が必要
  • 単独での外出は困難
  • 簡単な金銭管理は可能だが、複雑な管理は困難

3級の判定基準(厚生年金のみ)

労働が著しい制限を受ける、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の状態です:

知的機能・適応行動

  • IQおおむね51~70(軽度精神遅滞に相当)
  • 日常生活は概ね自立しているが、社会生活には援助が必要
  • 一般就労は困難だが、援助があれば可能な場合もある

軽度知的障害の場合

IQ51~70程度の軽度知的障害の場合も、適応行動に著しい制限がある、就労や社会生活に大きな支障がある、他の精神障害を併存している場合などは、障害年金の対象となる可能性があります。

20歳前傷病による特例について

知的障害の場合、多くが20歳前傷病による障害年金の対象となるため、この特例について詳しく説明します。

20歳前傷病の要件

  1. 初診日が20歳前にあること
  2. 障害認定日において障害等級に該当すること
  3. 日本国内に住所を有すること

所得制限について

20歳前傷病による障害年金には所得制限があります(国民年金法第30条の4第2項):

支給停止基準

  • 前年の所得が472万1千円を超える場合:全額支給停止
  • 前年の所得が370万4千円を超える場合:半額支給停止

所得の範囲

  • 給与所得、事業所得、雑所得等の合計
  • 障害年金、遺族年金は所得に含まれない
  • 扶養親族がいる場合は控除額が加算される

申請時期

20歳の誕生日の前日から申請可能で、早期申請により20歳到達月の翌月から受給開始となります。

申請に必要な書類と準備すべきもの

知的障害の障害年金申請には、以下の書類が必要です(日本年金機構「障害年金ガイド」)。

必須書類

  1. 年金請求書: 障害基礎年金用(20歳前傷病の場合)
  2. 診断書(精神の障害用): 障害認定日以降3ヶ月以内の現症(国民年金法施行規則第34条)
  3. 受診状況等証明書: 初診日を証明する書類
  4. 病歴・就労状況等申立書: 出生から現在までの詳細な経過

添付書類

  • 年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 振込先金融機関の通帳等

知的障害特有の準備ポイント

早期からの資料収集

  • 母子健康手帳: 乳幼児健診の記録、発達の遅れの指摘
  • 療育手帳: 取得時期と判定内容
  • 医療記録: 小児科、児童精神科での受診記録
  • 学校記録: 特別支援教育の記録、個別の教育支援計画

心理検査結果

知的障害の程度を客観的に示すために重要:

  • 知能検査: WAIS-IV、WISC-IV、田中ビネー式等
  • 適応行動評価: Vineland-II適応行動尺度等
  • 継続的な検査結果: 成長に伴う変化の記録

診断書作成のポイントと医師との連携

診断書は障害年金審査における最重要書類です。知的障害の特性を適切に反映した記載が必要です。

医師に伝えるべき情報

知的機能について

  • 知能検査の結果(IQ値、下位検査の結果)
  • 言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度の各能力
  • 学習能力の程度と制限

適応行動について

医師には日常生活能力の7項目について、知的障害がどのように影響しているかを具体的に伝えましょう:

  1. 適切な食事: 栄養バランスの理解、調理能力
  2. 身辺の清潔保持: 入浴、歯磨き、着替えの自立度
  3. 金銭管理と買い物: お金の概念理解、計算能力
  4. 通院と服薬: 通院の必要性の理解、服薬管理能力
  5. 他人との意思伝達: 言語理解、表現能力
  6. 身辺の安全保持: 危険認識能力、交通ルールの理解
  7. 社会性: 社会的ルールの理解、対人関係の構築能力

診断書記載の重要ポイント

客観的で具体的な記載

抽象的な表現ではなく、具体的な能力や制限を記載することが重要です:

良い例:

「3桁の足し算は困難で、買い物時におつりの計算ができない。1000円札で300円の商品を購入した際、おつりが700円であることが理解できない」

悪い例:

「計算が苦手である」

IQ値と適応行動の総合評価

知的障害の等級判定では、IQ値だけでなく適応行動の制限が重要です。知能検査の詳細な結果、適応行動の具体的な制限、日常生活での介助の必要性を明確に記載してもらうことが大切です。

病歴・就労状況等申立書の書き方

知的障害の病歴・就労状況等申立書は、出生から現在までの発達と支援の経過を詳しく記載する重要な書類です。

記載すべき内容

乳幼児期

  • 出生時の状況、発達の遅れが気づかれた時期
  • 首すわり、歩行、言語等の発達の遅れ
  • 乳幼児健診での指摘事項
  • 早期療育の開始時期と内容

学童期・青年期

  • 就学時健康診断の結果
  • 特別支援教育の利用状況
  • 学習面・生活面での困難と支援内容
  • 卒業後の進路(福祉施設、就労等)

現在の状況

  • 就労状況と職場での適応
  • 日常生活の自立度
  • 家族からの支援内容
  • 社会資源の利用状況

効果的な記載のコツ

具体的なエピソードの記載

発達段階に応じて具体的な状況を記載します:

乳幼児期:

「1歳6ヶ月時点で有意語が出ず、歩行も2歳3ヶ月まで困難であった」

学童期:

「小学1年時、ひらがなの読み書きができず、数の概念も3まで程度であった」

成人期:

「作業所での単純作業は可能だが、複雑な指示の理解は困難」

支援の必要性の明確化

日常生活や社会生活でどのような支援が必要かを具体的に記載:

  • 「買い物時は金額の計算ができないため、必ず家族が同行している」
  • 「服薬管理ができないため、母親が毎日薬を準備している」
  • 「通勤時は決まったルートでないと迷うため、家族が送迎している」

申請手続きの流れと注意点

知的障害の障害年金申請から決定までの具体的な流れをご説明します。

Step1:事前準備期間(1-2ヶ月)

  • 出生時からの医療記録の収集
  • 母子健康手帳、療育手帳等の確認
  • 学校教育記録の取得
  • 心理検査結果の整理
  • 申立書の作成

Step2:書類提出(即日)

  • 年金事務所または市区町村窓口
  • 受付印のある控えを必ず受領

Step3:審査期間(3-4ヶ月)

日本年金機構の障害年金審査医員による書面審査が実施されます。知的障害の場合、比較的審査期間は短い傾向にあります。

Step4:結果通知

年金証書(支給決定)または不支給決定通知書が送付されます。支給決定の場合、20歳前傷病では20歳到達月の翌月分から支給開始となります。

知的障害特有の注意点

20歳前傷病の特例申請

20歳の誕生日の前日から申請可能で、早期申請により受給開始が早まります。ただし、所得制限に注意が必要です。

初診日の特定

乳幼児期の記録が不完全な場合があるため、可能な限り早期の記録を収集し、一貫した経緯を示すことが重要です。

認定率を上げるための対策

知的障害の障害年金認定率を向上させるための具体的な対策をご紹介します。

医師との効果的な連携

専門医の受診

可能であれば、知的障害を専門とする医師(児童精神科医、精神科医等)の診断書を取得することが望ましいです。

定期的な心理検査の実施

知的機能と適応行動の客観的評価のため、知能検査や適応行動評価を定期的に実施し、検査結果を蓄積することが重要です。

客観的証拠の効果的活用

療育手帳の活用

各都道府県で発行される療育手帳は重要な資料となります:

  • 判定結果(A1、A2、B1、B2等)
  • 判定時のIQ値
  • 適応行動の評価
  • 継続的な更新による経過の記録

支援機関の記録活用

  • 児童発達支援事業所での発達評価
  • 就労移行支援事業所での職業評価
  • 生活介護事業所での日常生活評価
  • 相談支援事業所でのアセスメント

書類作成の質的向上

具体性と客観性の重視

抽象的な表現を避け、具体的で客観的な記載を心がけます:

  • 数値による表現(IQ値、検査結果等)
  • 具体的な生活場面での困難
  • 必要な支援の具体的内容

一貫性のある記載

診断書と申立書の整合性、時系列の一致、評価結果の整合性を保つことが重要です。

専門家に依頼するメリット・デメリット

知的障害の障害年金申請において、専門家への依頼を検討する際の判断材料をご紹介します。

専門家依頼を推奨するケース

  • 軽度知的障害で認定が困難な場合
  • 他の発達障害や精神障害を併存している場合
  • 初診日の特定が困難な場合
  • 過去の申請で不支給となった場合

専門家依頼のメリット

専門知識と豊富な経験

  • 知的障害の障害年金申請に関する専門的知見
  • 20歳前傷病の特例に関する深い理解
  • 認定されやすい書類作成のノウハウ
  • 審査のポイントを熟知した対策立案

手続きの負担軽減

  • 複雑な書類作成の代行
  • 医療機関との連携サポート
  • 年金事務所との折衝代行
  • 家族の精神的・時間的負担の軽減

専門家依頼のデメリット

費用負担

  • 相談料:無料〜1万円程度
  • 着手金:無料〜5万円程度
  • 成功報酬:受給決定額の10〜20%程度

依頼先選択の重要性

すべての専門家が知的障害の障害年金申請に精通しているわけではないため、実績や専門性を十分に確認する必要があります。

自分で申請する場合の留意点

十分な準備期間の確保、制度の正確な理解(20歳前傷病の特例制度、所得制限の詳細等)、必要書類の適切な準備が重要になります。

まとめ

知的障害による障害年金は、適切な準備と手続きにより受給可能な重要な支援制度です。

受給の可能性について

知的障害は障害年金の明確な対象疾患であり、軽度から重度まで幅広く対象となります。重要なのはIQ値だけでなく、適応行動の制限の程度です。日常生活や社会生活に継続的な支援が必要な場合は、受給の可能性があります。

20歳前傷病の特例の活用

知的障害の多くは生来的な障害であり、20歳前傷病による障害年金の対象となります。この場合、保険料の納付状況に関係なく受給でき、20歳到達月の翌月から支給開始となります。ただし、所得制限があることに注意が必要です。

成功のための重要ポイント

出生時からの詳細な記録収集、継続的な心理検査の実施、医師との密な連携による適切な診断書作成、具体的で客観的な申立書の記載、療育手帳や支援機関記録の効果的活用が認定獲得の鍵となります。

専門家活用の価値

軽度知的障害や複雑な症例の場合、初診日特定が困難な場合には、専門家への依頼を検討することをお勧めします。特に20歳前傷病の特例制度は複雑な面もあるため、専門家の知見が重要な役割を果たします。

知的障害により日常生活や社会生活に困難を抱えている方やそのご家族は、一人で悩まず、まずは正しい情報収集から始めてください。知的障害の程度や生活状況を丁寧に整理し、適切な支援を受けながら申請手続きを進めることで、必要な経済的支援を受けられる可能性が十分にあります。

知的障害の場合は他の精神障害と比べて症状が客観的に把握しやすく、適切な準備により認定率も比較的高い傾向にあります。諦めることなく、ご本人の生活の質の向上のため、前向きに取り組まれることを心より願っています。

最終更新日:2025年9月17日

※本記事の情報は最終更新日時点のものです。最新の制度内容については、日本年金機構または年金事務所にご確認ください。

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