がん・白血病で障害年金は受給できる?申請条件と手続きの完全ガイド

がんや白血病と診断された方やそのご家族から、「障害年金は受給できるのだろうか」という相談を数多くいただきます。治療による副作用、体力の低下、仕事への影響など、がんとの闘いは身体的にも経済的にも大きな負担となります。
実は、がんや白血病も障害年金の対象疾患であり、治療の状況や日常生活への影響によっては、受給できる可能性があるのです。

がん・白血病でも障害年金は受給できる

結論から申し上げると、がんや白血病でも障害年金の受給は可能です。「障害年金はがんでももらえるの?」と驚かれる方も多いのですが、障害年金は身体障害だけでなく、内臓疾患も対象としており、がんもその一つです。

ただし、「がんと診断された」というだけでは受給できません。治療の状況、症状の程度、日常生活や労働への影響などが総合的に評価されます。例えるなら、病名そのものではなく、「その病気がどれだけ生活を制限しているか」が判断のポイントになるということです。

障害年金の対象となるがんの状態

がんや白血病で障害年金の対象となるのは、主に以下のような状態です。

抗がん剤治療による副作用が重度な場合

化学療法による強い吐き気、倦怠感、末梢神経障害などで、日常生活に著しい制限がある場合が該当します。例えば、強い倦怠感で家事ができない、外出が困難、仕事に就けないといった状態です。抗がん剤の種類や投与量、副作用の程度によって評価が変わります。

転移や再発により全身状態が悪化している場合

がんの転移や再発により、臓器機能が低下し、日常生活に常時援助が必要な状態が該当します。食事、入浴、着替えなどに介助が必要、一人での外出が困難といった状況です。

造血器腫瘍(白血病など)の場合

白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液のがんは、認定基準が明確に定められています。検査数値(白血球数、血小板数、ヘモグロビン値など)と日常生活への影響を総合的に評価します。骨髄移植後の状態も含まれます。

がんの治療後の後遺症が残っている場合

手術や放射線治療による機能障害が残っている場合も対象です。例えば、喉頭がん手術後の発声障害、乳がん手術後のリンパ浮腫による上肢機能障害、直腸がん手術後の人工肛門造設などが該当します。

緩和ケアを受けている場合

積極的治療が困難で、緩和ケア中心の治療となっている場合、全身状態や日常生活動作能力(ADL)の低下の程度によって評価されます。

申請に必要な3つの条件

障害年金を受給するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

初診日要件

がんや白血病で初めて医療機関を受診した日(初診日)に、国民年金または厚生年金に加入していることが必要です。多くの場合、健康診断で異常を指摘され、精密検査を受けた医療機関が初診日となります。人間ドックや検診で異常が見つかった場合は、その検診機関での受診日が初診日になる可能性もあります。

初診日の証明は、診療録(カルテ)、診察券、検査結果、紹介状などで行います。特にがんの場合、複数の医療機関を受診することが多いため、最初に異常を指摘された医療機関を正確に把握することが重要です。

保険料納付要件

初診日の前日時点で、一定期間以上の保険料を納めていることが求められます。具体的には、初診日の属する月の前々月までの期間で、加入期間の3分の2以上の保険料を納付または免除されている必要があります。

また、令和18年(2036年)3月31日までに初診日がある場合は、初診日において65歳未満であれば、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がない場合は、この特例要件でも認められます。働き盛りの年代でがんに罹患した方の多くは、この要件を満たしていることが多いです。

障害状態要件

初診日から1年6ヶ月経過した日(障害認定日)に、障害等級に該当する状態であることが必要です。

がんは進行性の疾患であるため、障害認定日の時点では軽症でも、その後症状が悪化することがあります。このような場合は「事後重症請求」という方法で申請することができます。

障害等級の認定基準

障害年金の等級は、障害の程度によって1級から3級まで分かれています。

障害等級1級

日常生活において、ほとんど常に他人の介助が必要な状態です。がんの場合、終末期で寝たきりに近い状態、食事や排泄に常時介助が必要な状態、骨転移による高度の疼痛で日常生活動作が著しく制限される状態などが該当します。

障害等級2級

日常生活に著しい制限を受ける状態です。一人での外出が困難、家庭内でも介助が必要な場面が多いといった状態が該当します。抗がん剤治療の副作用で強い倦怠感があり、家事や身の回りのことが一人でできない、白血病で頻繁な輸血が必要で活動が著しく制限される状態などが含まれます。

障害等級3級

労働に著しい制限を受ける状態です。軽作業はできても、フルタイムの就労が困難、通勤や勤務時間に制限が必要といった状態が該当します。ただし、3級は障害厚生年金のみに設定されており、国民年金加入者(自営業者など)は対象外となる点に注意が必要です。

がんの場合、治療の段階や方法によって状態が大きく変化するため、診断書作成時点での正確な状態把握が重要になります。

申請手続きの流れ

障害年金の申請は、以下のステップで進めていきます。

ステップ1:年金事務所での相談

まずは最寄りの年金事務所で、受給要件を満たしているか確認します。初診日がいつか、当時どの年金制度に加入していたか、保険料の納付状況などを調べてもらいます。がんの場合、初診日の特定が複雑になることがあるため、この段階で丁寧に確認することが重要です。

ステップ2:必要書類の準備

年金請求書、診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書などを準備します。がんの診断書は、がんの種類によって使用する様式が異なります。血液・造血器疾患の場合は専用の診断書様式があり、その他のがんは「その他の障害用」の診断書を使用することが一般的です。

診断書には、がんの病期(ステージ)、治療内容、治療による副作用、検査所見、日常生活動作能力(ADL)などが詳しく記載されます。

ステップ3:受診状況等証明書の取得

初診の医療機関と現在通院している医療機関が異なる場合は、初診時の病院で「受診状況等証明書」を取得する必要があります。がんの場合、健康診断での異常発見から、精密検査、専門病院への紹介という流れが一般的なため、複数の医療機関の受診歴を整理する必要があります。

ステップ4:病歴・就労状況等申立書の作成

ご自身またはご家族が、発病から現在までの経過、日常生活の状況、就労状況などを記載します。治療によってどのような症状があり、日常生活にどのような支障があるのか、具体的なエピソードを交えて書くことが重要です。

例えば、「抗がん剤治療後の倦怠感で、午前中はほとんど起き上がれない」「食欲不振と吐き気で体重が15kg減少した」「外出すると感染リスクがあるため、ほとんど自宅で過ごしている」など、日常生活での具体的な困りごとを記入しましょう。

ステップ5:年金事務所への提出

すべての書類が揃ったら、年金事務所に提出します。提出後、日本年金機構で審査が行われ、約3ヶ月程度で結果が通知されます。がんの場合、病状の変化が速いこともあるため、できるだけ速やかに手続きを進めることをお勧めします。

受給額の目安

障害年金の受給額は、等級と加入していた年金制度によって異なります。

障害基礎年金の場合

1級:年額約103万円、2級:年額約83万円が基本額となります。さらに、18歳未満の子どもがいる場合は、子の加算が加わります。第1子・第2子は1人につき年額約23万円、第3子以降は1人につき年額約7万円が加算されます。

障害厚生年金の場合

障害基礎年金に加えて、障害厚生年金(報酬比例部分)が支給されます。金額は、過去の給与額や厚生年金加入期間によって異なりますが、平均的なサラリーマンの場合、1級で年額約150万円から200万円、2級で年額約120万円から170万円程度になることが多いです。

さらに、配偶者がいる場合は、1級・2級に限り配偶者加給年金(年額約23万円)が加算されます。

がん治療による収入減少や医療費負担を考えると、この年金は生活を支える重要な収入源となります。

がん患者特有の申請ポイント

治療中でも申請可能

がん治療中であっても、治療の副作用や症状により日常生活に著しい制限がある場合は、申請できます。「治療が終わってから」と考える必要はありません。むしろ、治療中で最も症状が重い時期に申請することで、適切な評価を受けられる可能性があります。

寛解期でも受給できる場合がある

白血病や悪性リンパ腫などで寛解(症状が落ち着いている状態)していても、後遺症や治療の影響で日常生活に制限がある場合は、受給対象となります。例えば、骨髄移植後の合併症(GVHD:移植片対宿主病)で生活に支障がある場合などです。

診断書のタイミングが重要

がんの状態は治療サイクルによって変動します。抗がん剤投与直後は副作用が強く、数週間後には回復するというサイクルを繰り返すことがあります。診断書は、最も症状が重い時期の状態を反映させることが重要です。主治医とよく相談し、適切なタイミングで診断書を作成してもらいましょう。

検査数値も重要な判断材料

血液のがん(白血病、悪性リンパ腫など)の場合、血液検査の数値(白血球数、好中球数、血小板数、ヘモグロビン値など)が認定の重要な判断材料となります。診断書には最新の検査結果が記載されますので、定期的な検査を受けておくことが大切です。

他の制度との関係

がんの治療では、障害年金以外にも利用できる制度があります。

傷病手当金との関係

会社員の方が病気で仕事を休む場合、健康保険から「傷病手当金」が支給されます。これは、給料の約3分の2が最長1年6ヶ月支給される制度です。傷病手当金と障害年金は併給可能ですが、傷病手当金が調整(減額)される場合があります。

高額療養費制度の活用

がん治療では医療費が高額になりがちですが、「高額療養費制度」を利用することで、月々の自己負担額を一定額に抑えることができます。障害年金とは別の制度ですが、併せて活用することで経済的負担を軽減できます。

障害者手帳との違い

障害年金と身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳は別の制度です。障害年金を受給していても、障害者手帳が交付されるとは限りませんし、その逆もあります。ただし、がんで人工肛門を造設した場合などは、障害者手帳の交付対象にもなります。

申請時の注意点

初診日の証明が重要

がんの場合、健康診断での異常指摘から始まることが多く、初診日の特定が複雑になります。健康診断を実施した機関、精密検査を受けた病院、紹介された専門病院など、どこが初診日になるかで受給の可否が変わることもあります。早めに年金事務所で確認しましょう。

診断書の内容が審査の鍵

がんの場合、外見からは症状の重さが分かりにくいことがあります。倦怠感、痛み、吐き気などの自覚症状は、医師に具体的に伝えなければ診断書に反映されません。診察時には、日常生活での困りごとを詳しく説明しましょう。

事後重症請求という選択肢

がんは進行性の疾患であるため、障害認定日(初診日から1年6ヶ月後)の時点では症状が軽くても、その後悪化することがあります。この場合、「事後重症請求」によって、現在の状態で申請することができます。請求した月の翌月分から年金が支給されます。

更新(診断書の再提出)について

障害年金は、多くの場合1年から5年ごとに診断書を再提出し、障害の状態を確認する「更新」があります。がんの場合、治療が奏功して症状が改善すれば、等級が下がったり、支給停止になったりする可能性もあります。逆に、症状が悪化すれば等級が上がることもあります。

申請をサポートしてくれる専門家

がんの治療中は体力的にも精神的にも負担が大きく、複雑な手続きを自分で行うのは困難な場合があります。

社会保険労務士

障害年金の申請代行を専門とする社会保険労務士に依頼すれば、書類作成から提出まで全面的にサポートしてもらえます。がんの認定基準に詳しい社会保険労務士を選ぶことで、適切な申請が可能になります。報酬は、着手金と成功報酬の組み合わせが一般的で、受給決定額の2ヶ月分程度が相場です。

医療ソーシャルワーカー

病院に在籍する医療ソーシャルワーカー(MSW)は、障害年金をはじめとする各種制度の相談に応じてくれます。無料で相談できるため、まず最初に相談してみるとよいでしょう。がん診療連携拠点病院には、必ず相談支援センターが設置されています。

がん相談支援センター

全国のがん診療連携拠点病院には、「がん相談支援センター」が設置されており、経済的な問題を含む様々な相談に対応しています。障害年金についても情報提供や相談が可能です。

患者会や支援団体

同じがんの患者さんやご家族が集まる患者会では、実際に障害年金を受給している方の体験談を聞くことができます。がんの種類ごとの患者会も多数存在し、実践的なアドバイスが得られます。

まとめ:治療に専念するための経済的サポートを

がんや白血病でも、治療の状況や日常生活への影響によって障害年金の受給が可能です。初診日要件、保険料納付要件、障害状態要件の3つをクリアし、障害認定日(初診日から1年6ヶ月後)または現在の時点で、障害等級に該当する状態であれば申請できます。

がんの場合、病状が変化しやすく、治療の副作用も個人差が大きいため、ご自身の状態を正確に医師に伝え、適切な診断書を作成してもらうことが重要です。「こんな症状で申請してもいいのだろうか」と遠慮する必要はありません。日常生活に支障があるなら、それは障害年金の対象となる可能性があります。

申請手続きは複雑に感じられるかもしれませんが、社会保険労務士や医療ソーシャルワーカーなどの専門家のサポートを受けることで、スムーズに進められます。がん治療には、身体的・精神的な負担に加えて、経済的な負担も伴います。利用できる制度を活用し、少しでも安心して治療に専念できる環境を整えていきましょう。

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